退職代行サービスの利用者増が象徴する「働き手の意識変革」
一方で、一見すると矛盾する動きに見える現象が、退職代行サービス利用者の増加です。
退職代行を利用した働き手と職場との関係性は、基本的に断絶することになります。ただ、退職代行の利用者増は、これまで職場に押さえつけられて退職の意思を示すことさえできなかった人たちが、自由と新たな職場での可能性を手に入れるようになってきている証しと捉えることもできます。退職すらできなかった潜在層による「シン・リベンジ退職」です。

職場との関係性は絶たれたとしても退職代行を利用するということは、働き手側の方が先にその職場側を見切ったとも言えます。中には、こらえ性がないだけで判断を誤ってしまっているケースもあるかもしれませんが、いずれにせよ職場が働き手側との間に良好な関係性を築けなかったことに変わりはありません。
「退職したいけど、怖くて言い出せない」などと、人知れず不満をため続けている働き手は、いまもあちこちの職場の中にいると思います。退職代行サービスは、退職潜在層に次の道へと進むための新たな選択肢をもたらしました。今後日本の職場は、リワード退職と潜在層によるシン・リベンジ退職の二極化が顕著になっていくかもしれません。
一方で少子化は進み、採用難はますます激しくなり、いま同僚として働いている人たちと今後も同じように一緒に働き続けることになるとは限らなくなってきました。職場は、働き手との関係性について根底から見直す必要性が生じてきています。
かつて経団連会長が終身雇用を続けていくのは難しいと述べたことに象徴されるように、日本でも社員が退職することが当たり前と認識される時代になろうとしています。いずれ退職することを前提に働き手との関係性を構築していく場合、職場にとって望ましいのは果たして、リワード退職とシン・リベンジ退職のどちらなのでしょうか。
【川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)】
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。