市民の投票運動が「2位に大差」に結び付く

 一般投票でも「おにクル」は当初から高い人気を誇った。「ジブリパーク」と競り合いながらも振り切ったのは、これまた市民の力によるものだ。

「おにクル」館内には投票を呼びかけるポスターが掲示され、担当課の職員は来館者に直接声をかけたという。地元の高校では教師が生徒たちに「『おにクル』に恩返しを」と呼びかけた。投票締め切り前日にはWEBマガジン「茨木ジャーナル」も記事を掲載。最終的に「ジブリパーク」に1315票の差を付けた。

 前出の神崎氏は「SNSの賞なのに、“バズり”ではなく対面のつながりで大賞を勝ち取ることができました。本当に、市民の皆さんには頭が上がりません」と謝意を語った。

ジブリ世界を現実にした「魔女の谷」

 一般投票で2位になった「ジブリパーク」は「愛・地球博記念公園」内に愛知県が整備した公園施設だ。公園全体の景観や既存の施設を生かすように計画されている。2022年から順次開業した5つのエリアのうち、最新の「魔女の谷」(2024年3月開園)が特別賞の対象となった。

「ジブリパーク 魔女の谷」(写真:宮沢洋)「ジブリパーク 魔女の谷」(写真:宮沢洋)

 アニメに材を採ったテーマパークが建築賞の対象になるのは意外に思えるし、そもそも「魔女の谷」は単体の建築ではない。設計を手掛けた日本設計建築設計群チーフ・アーキテクトの大山政彦氏は、授与式の挨拶でこの点に言及した。

「一般に建築の評価は、建物固有の価値に向けられるものです。これに対して、ジブリパークの特別賞は、建物そのものよりも、公園との曖昧な境界によって日常と非日常を行き来するような、体験全体が評価されたものと考えています。『みんなの建築』とは何を指すのか、議論を深めるきっかけになればうれしい」

「魔女の谷」は、「ハウルの城」や「魔女の家」、「グーチョキパン屋」などジブリ作品に登場する建物と、パークオリジナルの建物が混在して風景を形作っている。外観はもとより室内空間も、そこで実際に作中人物が暮らしているかのような再現度だ。

「魔女の谷」の街並み。左の三角屋根が「ハウルの動く城」に登場する「ハッター帽子店」、右の黄色い壁が「魔女の宅急便」の「グーチョキパン屋」。いずれもヨーロッパの伝統的な木造工法で建てられている。2棟に挟まれた白い壁の建物はオリジナルの「魔女のエレベーター」で、バリアフリーのために設けたもの(写真:宮沢洋)「魔女の谷」の街並み。左の三角屋根が「ハウルの動く城」に登場する「ハッター帽子店」、右の黄色い壁が「魔女の宅急便」の「グーチョキパン屋」。いずれもヨーロッパの伝統的な木造工法で建てられている。2棟に挟まれた白い壁の建物はオリジナルの「魔女のエレベーター」で、バリアフリーのために設けたもの(写真:宮沢洋)