市民との協働が生きた「おにクル」
大阪府茨木市にある「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」は、ホールや図書館、プラネタリウム、市民活動センター、子育て支援など、さまざまな機能を併せ持つ公共施設だ。設計した伊東豊雄氏の代表作には「せんだいメディアテーク」や「みんなの森 ぎふメディアコスモス」という複合文化施設があるが、そこに子育て支援が加わったのが「おにクル」の大きな特徴という。なおかつ、目的の異なるこれらの機能が、互いに交じり合うような、オープンな空間でつながっている。

こうした「おにクル」の機能や、機能同士が「つながる」「交じり合う」というコンセプトは、設計者を選ぶための募集要項にすでに書かれている。茨木市の行政と市民が議論して決めたのだ。施設の構想段階から設計、建設、開業までの約7年間を通して、市民会議やワークショップが100回以上開かれ、参加者はのべ2000人を超えたという。

授与式でプレゼンを行った伊東豊雄建築設計事務所の神崎夏子氏は次のように振り返る。
「プロジェクトに対する行政と市民の熱意がすでに醸成されていたところに、あとから私たち設計者と施工者が加わって、日に日に1つのチームになっていった過程が強く印象に残っています。市民が自ら育んだ施設だからこそ、こんなに活発に使われているのでしょう」
「おにクル」は開業1年で来館者数200万人を突破。茨木市の人口が約28万人であることを考えると驚異的な数字だ。土日ともなれば、1日1万人を超える人が訪れるという。

伊東氏は言う。「人は、建築のプランや美しさにひかれて集まるんじゃないんです。人間と人間のコミュニケーションを通じて、誠心誠意つくった建築だからこそ来てくれる。『おにクル』はシンボリックな強い建築ではありませんが、人々におおいに喜ばれている。ただ、建築家としてこのことをどう受けとめるべきかは、今も考え続けています」