(写真:ロイター/アフロ)

 中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)が、2025年にAI(人工知能)向け半導体に120億米ドル(約1兆8800億円)超を投資する計画だと、英フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じている。米国で人気SNS事業の売却を迫られる中、AI技術を新たな成長の柱と位置付けているという。

ファーウェイやエヌビディアの半導体活用へ

 中国国内でAI半導体を確保するために、400億元(55億米ドル、約8600億円)の予算を組んでいる。この金額は2024年の2倍になると、計画に詳しい2人の関係者は述べている。中国国内では、ファーウェイ(華為技術)や中科寒武紀科技(カンブリコン)などのAI半導体企業に発注する。バイトダンスは、これら中国製半導体を「推論」タスク、すなわち大規模言語モデル(LLM)がプロンプトへの応答を生成するための演算処理に利用する。

 加えて、より高度な米エヌビディア(NVIDIA)製GPU(画像処理半導体)を使ってLLMをトレーニング(学習)するため、中国国外で約68億米ドル(約1兆700億円)を投じる。ただし、エヌビディア製の半導体は、米国の輸出規制に準拠するように性能が抑えられた「HGX H20」などになるようだ。

バイトダンスのAI戦略、トランプ政権次第

 一方、米国は中国の技術的台頭を警戒し、輸出規制を強化している。特に、AIや半導体などの分野で、中国企業による最先端技術の確保を阻止するため、規制を頻繁に更新している。バイトダンスの外国投資戦略はこうした米国側の動きによって困難に直面する可能性がある。

 バイトダンスは、創業者の張一鳴氏の指揮の下、基盤モデルの強化を図っている。様々なプラットフォームにAI機能を実装するため、独自AIインフラも構築している。例えば、東南アジア、特にマレーシアでコンピューティング能力を構築してきた。中国企業は2023年以降、エヌビディア製最先端半導体の購入を禁止されているが、バイトダンスは、サードパーティのデータセンタープロバイダーとのレンタル契約を通じて半導体へのアクセスを確保していると、複数の業界関係者は述べている。

 ただしFTによると、この抜け穴は先ごろバイデン前政権によってふさがれた。新たに半導体の所有者と運営者の身元審査プロセス制度を設け、こうした動きの阻止を図った。今後、トランプ大統領が輸出規制に関して異なる立場を取る可能性はあるものの、これらの規制が厳格に実施されれば、同社AI戦略の見通しは不透明になる。

バイトダンスのAIアプリ、中国で人気

 バイトダンスは2023年8月に、AIチャットボット(自動応答システム)「豆包(Doubao)」をリリースしたが、このサービスが中国で人気を博している。中国の調査サイト「AI産品榜」によると、その月間利用者数は24年12月時点で7100万人だった。

 FTによると、バイトダンスは中国におけるエヌビディアの最大の顧客だという。主にHGX H20を購入し、国内のデータセンターで活用している。HGX H20は、AI向け最新機能の多くを搭載しているが、米政府の規制に準拠するため、一部の計算能力が制限されている。それでも中国製よりも優れているとされ、同国で強い需要がある。