安倍政権時代の「シリアの例」とは
日本の難民受け入れは、時々の国際世論にも左右されてきました。それが目立ったのは、内戦が激化し、600万人以上を数えたシリア難民の受け入れです。シリア問題が大きなテーマとなった2015年9月の国連総会で、当時の安倍晋三首相は「日本には人材を育て、人道支援を惜しまず、人権を守ろうと努めた経験がある。その蓄積を今こそ惜しみなく提供したい」と強調。国際協調を重視する考えから、難民支援を強化する方針を打ち出しました。
その結果、数はわずかですが、2017年から毎年数人のシリア人を受け入れ、難民認定しました。このほか、難民認定こそしなかったものの、最大150人の若いシリア人を留学生として受け入れる計画もスタートさせ、現在も続いています。
石破首相がガザの難民受け入れ検討を表明した際、「シリアの例をよく参考にしながら、実現に向けて努力をする」と述べたシリアの例とは、この安倍政権下で始まったシリア支援を指しています。
難民を多く受け入れてきた欧州や中東の国々では、文化や習慣の違いなどから、社会に不協和音も出ています。難民の受け入れは人道上の措置であり、難民条約に加盟する国の義務でもありますが、日本社会は外国人や外国文化を忌避する傾向も強いだけに、慎重な議論が求められそうです。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。