下水道事業は「大赤字」でヒトも足りない

橋本:八潮の事故は2021年の点検後、5年経たないうちに発生しましたから、今後点検の頻度を上げるという議論が出てくる可能性があります。しかし、現場の下水道事業者は不足し疲弊しています。

 また、全国の下水道事業の原則は「独立採算」、つまり使用料をもとにした運営ですが、実態はどこの事業者も「(使用料だけでは)大赤字」です。運営は、自治体の一般財源と政府の補助金で何とか保たれているというのが現実です。

 特に、2000年以降に盛り上がった「自治体は“ムダ”を減らせ」という政策のあおりを受け、下水道の担当職員は最盛期の4万7000人(1997年)から、2万6000人(2021年)にまで減っています。

 下水道事業は、地域のことをよく知らなければ運営できません。人口や地形、水の使用量など現場に即した専門性が求められます。2万人も職員が減っていることから分かるよう、現在ではそれぞれの自治体が持っていたノウハウが十分に継承できていない状態です。

 いくら都市部だとはいえ「カネが潤沢にあります」というような下水道事業者は存在しません。点検工事を増やそうにも、カネもヒトも足りない状況では、基本的には政府の補助金や自治体の財源頼みの運営になってしまいます。

 仮に、今回の件を受けて、政府から下水道点検に予算がばらまかれたとしましょう。ただでさえ職員が減らされ、日頃の業務で一杯一杯の中で緊急の調査を実施できる余裕がない事業者も多数存在します。緊急調査を行なっている間、普段の業務は止まってしまいます。

 問題はこれだけにとどまりません。現在の下水道事業者は「官民連携」を基本としており、多くのケースで運営や維持管理を業者に委託しています。管路更新を行う際も民間企業に業務を発注しますが、複数の自治体で、入札価格が安すぎて業者が誰も手をあげなかった、という事態まで起きています。

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