トランプ大統領の選択は?
以上を踏まえ、米国などの安全保障・国防の専門家の間では、今後の米軍の戦力計画基準の見直しを問う声が高まっている。
その論点は、同時または重複する2つのMRCを戦うことができる、いわゆる二大戦争の基準に変更・戦力増強すべきかどうかである。
その採否が、世界大戦の危機を制御できるかどうかに通じるからである。
しかし、二大戦争基準には、財政負担の急激な増加や弱体化した国防産業の立て直し、海軍や海兵隊を悩ませている人的勢力確保(募集)などの国内問題に加え、さらに負担を求めることになる同盟国や友好国の協力など、大きな課題の解決が伴うことになる。
トランプ大統領は、「力による平和」(Peace Through Strength)、すなわち「強さを通じた平和の実現」を掲げ、就任演説では、「世界がこれまでに見た中で最も強力な軍隊」を構築し、それによって、敵の侵略を抑止し、無謀な戦争を回避して平和を実現する戦略を説いた。
前掲の「国家戦略(大戦略)」に従えば、中国とロシアがユーラシアにおいて地域覇権国ましてや世界覇権国として振る舞う事態は、大統領として断じて見過ごすことのできない重大事に違いなかろう。
大統領のイエスマンと言われるピート・ヘグセス国防長官は、上院における曰く付きの承認後、「国防総省へのメッセージ」を発出した。
その中で、「世界で最も強力かつ最も決定力のある軍隊」を維持し、「同盟国やパートナーと協力し、共産主義中国によるインド太平洋への侵略を抑止する」と強調した。
トランプ政権は、中国を最大かつ真の脅威とする見方を変えておらず、対中政策がより強固になることに疑う余地はないが、同時にロシアに対抗する戦力を構築する方向に進むか否かは、トランプ大統領の決断にかかっており、大いに頭を悩ますことになろう。
しかし、これは、米国一国のみの問題ではない。
同盟国や友好国が共有しなければならない問題である。
トランプ大統領は、NATOに国防費GDP(国内総生産)5%を、台湾には10%をそれぞれ要求すると発言している。
日本は中国と北朝鮮の脅威に直面しているにもかかわらず、いまだ防衛費GDP2%を満たしていない。
さらなる防衛力の強化や在日米軍駐留経費負担増を求められるとの覚悟が必要である。
カナダやメキシコといった米国に隣接する同盟国に対しても関税を武器に変え、政策変更を迫るトランプ大統領がどのような安全保障政策を採用するかは、中国やロシアのみならず、同盟国や友好国にとっても重大な関心事である。
我が国も、トランプ政権による世界大戦の危機への取組みを睨みながら、今後の政策の行方を注視する必要に迫られるのは間違いなさそうだ。