たったの80億円で整備できた秩父宮ラグビー場
先ほどの秩父宮ラグビー場の場合、30年間の運営権の対価として、落札したグループが支払った金額は411億円、ラグビー場の施設整備費は489億円だった。つまり発注者である国から見れば、約80億円でラグビー場の整備ができたということだ。
それでは落札したグループがどこで儲けるのかというと、秩父宮ラグビー場を活用したスポーツイベントの開催などで投資を回収していく。その部分に自信があるため、411億円という運営権対価を提示したのだろう。これが、民間の経営ノウハウに委ねるという意味である。
もちろん、秩父宮ラグビー場は東京の一等地にあり、収益が見込める施設だということは論を俟たない。下水道のように、料金収入が限定的なインフラ、あるいは公共の道路のように無料で使われているインフラの場合、料金収入で維持管理や更新のコストをまかなうことは難しい。
ただ、先ほど話したように、10~20年という長期間、民間の事業者に経営の自由度を与えれば、デジタル化を含む最先端技術の導入が進み、行政が管理するよりも効率的にインフラを経営するだろう。そうなれば、受益者のトータルの負担は間違いなく下がるはずだ。
また、上水道に関して、管路や施設の再整備の際に下流にある施設を上流に配置するなど高低差を利用すれば、大幅な省エネが進む。既存の浄水場は人口の増加に伴って整備されたため、必ずしも上流にあるわけではない。そのため、給水の際のポンプアップに膨大な電力を使っている。
ただ、ウォーターPPPにも課題はある。ウォーターPPPには、「管理・更新一体マネジメント方式」と「コンセッション方式」の二つがある。
ともに長期契約で維持管理と更新工事を行うところは共通・類似しているが、コンセッション方式の事業期間が10〜20年なのに対して、管理・更新一体マネジメント方式は原則10年と期間が短い。また、コンセッション方式には運営権の設定や利用料金の直接収受ができるなど、経営の自由度が高いという特徴がある。
さらに、コンセッション方式では性能発注による管路の維持管理と更新工事が認められているが、管理・更新一体マネジメント方式では移行措置とされており、現状の民間委託と変わらない。
長期間、水道施設と管路の維持管理と更新工事を性能発注によって民間に任せるというコンセッション方式は、自治体と事業者にとっては大きな改革だ。そのための移行措置として管路を含まない管理・更新一体マネジメント方式を新設したと理解しているが、現在起きている下水管の老朽化を鑑みれば、PPPの効果を最大化すべく、コンセッション方式に舵を切るべきではないだろうか。