高関税が需要の低迷をたらす
ロイターは23日「規制緩和によりアラスカ州での原油開発が可能になっても、事業が拡大される公算は小さい」と報じた。「将来の大統領がトランプ氏の政策を容易に覆せる可能性がある」として業界が慎重な構えを崩していないからだ。
米国の石油業界がキャッシュフローを重視する経営を行っている状況を踏まえ、「原油生産拡大を決めるのはホワイトハウスではなくウォール街だ」との声も聞こえてくる。
「原油増産による原油価格引き下げ」という思惑は外れた形だが、意外な政策が原油価格の引き下げ効果を有していることが明らかになっている。
27日、「米国がコロンビアに対して関税が課す」と伝わると、コロンビア産原油の供給懸念よりも「トランプ政権の関税政策が世界経済に打撃を与える」との心配が勝り、原油価格は下落した。
トランプ氏は30日「メキシコとカナダからの輸入品に対し、2月1日から25%を課す」と表明したが、カナダ(日量400万バレル超)とメキシコ(同70万バレル超)から供給される原油は関税の対象から除外した。
これにより、原油供給面での混乱は回避されたが、メキシコ、カナダからの輸入品の停滞が災いして米国経済が混乱すれば、米国の原油需要が脅かされる可能性が高い。
トランプ氏は全ての輸入品にも一律に関税を課す方針を示しており、実際に発動されれば、世界経済の悪化は避けられず、世界の原油需要は大打撃を受けることになる。
このように、トランプ政権の関税政策は原油市場に対して需要面から強烈なインパクトを与えるのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。