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原油価格引き下げを狙うトランプ大統領の思惑が、早くも「空振り」と見られつつある。「原油生産拡大を決めるのはホワイトハウスではなくウォール街だ」との声も聞こえてくる。だが、「掘って掘って掘りまくれ」を掲げるエネルギー政策とは別に、結果的に原油価格を引き下げる「劇薬」となりうる政策がある。それが関税だ。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=72ドルから75ドルの間で推移している。水準は先週に比べて3ドルほど下落しており、2週間前に比べると下げ幅は5ドルに達している。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
ロイターは1月27日「米国の制裁により原油の輸出が困難となったロシアは、燃料輸出を拡大することで事態の打開を図ろうとしている」と報じた。制裁により輸送船を見つけることが難しくなった原油に比べ、軽油用船舶の調達は容易であることが主な理由だ。
ロシアは燃料輸出の経済的なメリットにも目をつけたようだ。
主要7カ国(G7)がロシア産原油に科した上限価格措置は1バレル=60ドル未満だが、ロシア産原油は現在70ドル近辺と上限を上回る価格で取引されている。
これに対して軽油の上限価格は同100ドル未満であるのに対し、75ドル前後で推移しており、今後価格上昇の余地があるとの判断があるのだろう。
ロシア産原油への脅威は西側諸国の制裁ばかりではない。
ウクライナ軍はロシアの継戦能力に打撃を与えるため、ロシアの製油施設に対してドローン攻撃を続けている。1月の攻撃だけで相当の打撃を与えた可能性が高いが、ウクライナ軍は「武力侵攻を続けるロシアの戦略施設への攻撃を続ける」と予告している。
だが、市場はロシア産原油の供給不足に対するリスクにほとんど反応しなくなっている。
敏感に反応しているのは需要サイドの材料だ。