
冷戦時代の情報戦を描いたスパイアクション・コメディである不朽の名作『エロイカより愛をこめて』。作者である、少女漫画界の巨匠・青池保子の特別展「漫画家生活60周年記念 青池保子展 Contrail 航跡のかがやき」が2025年2月1日から東京・弥生美術館で開催されている。本展は、過去の展覧会では出品されなかったモノクロ原稿などをあわせ、約300点の原画により構成。
青池作品を愛する著者が専門分野から『エロイカより愛をこめて』の作品世界に迫る。第3回は、映画ライターの杉山亮一氏が、作品に散りばめられた映画007シリーズのエッセンスを掘り下げる。(JBpress編集部)
(杉山亮一:映画ライター)
※本稿は太陽の地図帖『青池保子『エロイカより愛をこめて』の世界』(太陽の地図帖編集部編、平凡社)より一部抜粋・再編集したものです
タイトルは映画『007』シリーズへのオマージュ
作者の青池保子が自ら語るように、『エロイカより愛をこめて』という甘美なタイトルの源泉は、映画版007(ゼロゼロセブン、ダブルオーセブン)シリーズの第2作『007/ロシアより愛をこめて』にある。
世界を危機に陥れる巨悪との対決を描きつつも、紀行番組さながらに舞台が各地の名所旧跡を移り変わり、美酒と美食とギャンブルと美男美女(あるいは美男美男)の邂逅が交錯する、007映画のあまりにも魅力的な“ごった煮”感は『エロイカ』に通じるものがあるのだが、あくまで『エロイカ』の物語は、世界情勢を巧みに取り入れた、青池の完全オリジナルである。
しかしながら『エロイカ』の登場人物や、その活躍に「007を感じる」部分が少なくないのもまた事実なのだ。
