“おちゃらけロレンス”のモデルはロジャー・ムーア?

 その最たるものは、もちろんSISエージェントのチャールズ・ロレンス。古き良き大英帝国と、世界の美女と、世界一有名なボンドカーであるアストンマーティンDB5をこよなく愛するロレンスは、少佐いわく「できそこないのボンドもどき」*1

*1 『エロイカより愛をこめて』第6巻 91ページ

 彼が初登場した1981年は「007史上最もノリが軽い」ロジャー・ムーアが3代目ボンドを演じていた時代で、そのキャラ造形はムーア=ボンドをお手本にした線が濃厚だ(ロレンスの眉毛は初代ボンドのショーン・コネリー似なのだが)。なかでも強い“ムーア色”を感じるのは、ロレンスが初登場したエピソード第10話「グラス・ターゲット」で身につけていた通信機能付きの腕時計。

『エロイカより愛をこめて』6巻107ページより ©︎青池保子/秋田書店『エロイカより愛をこめて』6巻107ページより ©︎青池保子/秋田書店

 ジェームズ・ボンドの腕時計といえば、かつてはロレックス、近年はオメガが定番だが、ムーア=ボンド時代にはセイコーの腕時計が多用され、(ボンドガールとのお楽しみの最中に)本国からの通信を受信し、美術品に仕込まれた発信機の電波を探知し、内蔵された小型爆弾で窮地を脱し液晶ディスプレイで女性の胸の谷間を観賞している。ロレンスのみならず、特殊機能満載の腕時計は80年代男子のロマンの結晶なのである。

3代目ボンドを演じたロジャー・ムーア。『007/ムーンレイカー』より。(写真提供=川喜多記念映画文化財団)3代目ボンドを演じたロジャー・ムーア。『007/ムーンレイカー』より。(写真協力=川喜多記念映画文化財団)

 ロレンスの上司ミスター・Lも007オマージュのキャラクター。ボンドの上司Mはミドルサイズの頑固な中年として描かれているが、そんなMを心身ともにスケールアップしたようなミスター・Lは、名を体で表す大物ぶりを見せてくれる。