本書では偉人たちの意外な「働き方」も明らかにした。アインシュタインの相対性理論は特許局での仕事の「副業」として生まれ、ベートーヴェンは作曲の傍ら株式投資で資産を膨らませた。安倍晴明は現代の映画の派手なイメージとは裏腹に堅実な公務員生活を送った。

 近代のスポーツ選手たちも例外ではない。野球界の重鎮として知られる金田正一は、現役時代に徹底した自己管理から得た知見を、健康ビジネスとして昇華させた。プロレスラーの力道山は、その知名度を活かしてゴルフ場開発に乗り出す。これは不幸にも道半ばで頓挫することになるが、「本業以外の道を探る」という視点は、現代にも通じる。

「転職の方法」で参考になるのが江戸川乱歩だ。乱歩は職を転々としたが、困窮するたびに知人に助けを求めた。「何度も人に頼むなんて格好悪い」という感覚は理解できるが、現代人が「人の目」を過剰に気にしすぎているのではないかという問いを乱歩の生きざまが投げかける。

狡くてもいい、他人を頼ってもいい、あらゆる手段を総動員し人生100年時代を生き延びよ

 彼らに共通するのは、「こうあるべき」という固定観念に縛られず、したたかに生きる姿勢だ。プライドや世間体にとらわれることなく、目の前の課題に柔軟に対応した。時には自身の立場や肩書きを逆手に取り、時には他者の力を借り、あらゆる手段を総動員して生き延びたのである。その生き様は、決して「清廉潔白」とは言えないかもしれない。しかし、だからこそ既存のルールが機能しなくなった不透明な時代を生きる私たちの心に響くものがある。

 人生100年時代を生きる私たちに必要なのは、まさにそんな柔軟さではないだろうか。「会社に滅私奉公」「ひとつの道を極める」「自力で全てを成し遂げる」といった、これまでの常識は必ずしも通用しない。むしろ、副業、転職、投資、人的ネットワークの構築など、あらゆる選択肢を柔軟に検討する必要がある。

 SNSで不平不満を叫んでいるだけでは何も解決しない。歴史が教えてくれるのは、偉人たちもまた、同じように悩み、もがきながら、しかし決して諦めることなく道を切り開いていったという事実だ。

 本書は単なる偉人たちの意外なエピソード集ではない。激動の時代を生き抜くためのヒントを盛り込んだ。固定観念を捨て去り、したたかに生きる。そして、小さな一歩を踏み出す勇気を持つ。それこそが、これからの時代を生き抜くための処世術なのかもしれない。