郷原弁護士と上脇教授は、メルチュとそのスタッフが行った情報世論誘導が「非常に高度」かつ「役に立つ」と評価していました。しかし、情報技術を専門に扱う我々はそのように評価しません。

 メルチュがやっていることには、正確にはその詳細が明らかにされてから確認すべきことでしょう。

 しかし、少なくとも、かつて「note」にPR会社社長自身が公開していた程度、つまり慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の学卒生なら誰でもできる程度の「技術未満」TIPS程度であるなら、ITテクノロジーの観点から見て「高度」なことは皆無と考えて大きく外れないでしょう。

 仮に「ノウハウ」さえ知ってしまえば万人が容易に模倣できる手法であるなら、それを情報技術の専門家である我々は「高度」とは呼びません。

 再犯防止のためにも、一定以上、厳密に処罰し、模倣犯、累犯などを防ぐ社会的な必要があると考えます。

 郷原さんと上脇教授が評価される「メルチュの手法」は、「高度」なのではなく「有効」と言い直すのが正確でしょう。

 ハッシュタグの設定などは分かりやすく記すなら、古くはナチス・ドイツの宣伝相、ヨーゼフ・ゲッペルスが発想、高度化した、マス・アジテーションのマインドコントロール手法の応用編というべきものです。

 こんなものがノウハウとして選挙に「生かされ」てしまったら、日本の民主主義が本質的に危ぶまれる可能性を、情報学の観点からは強く危惧します。

 例えて言うなら、高速道路の交通を遮断するのに、逆走して正面から突っ込むのは「有効な方法」ではあります。

 かつ、誰でも模倣することができる。特段「高度」ではありません。むしろ「平易で有効な方法」と言うべきです。

 では、交通流量の制限に逆走が推奨できるか・・・?

 これと同様で、浮遊票の誘導や特定候補への集票停止などに「有効」に見えるかもしれない、ネットユーザーが工夫を凝らせば可能な程度の「工夫」は、詳細に調査し逐一法の条文に罰則とともに明記して禁止すべき、非違行為のオンパレードであることを記しておきます。

 それらは既存の法体系では「禁止」されていない可能性が高い。

 法律家はそのようなグレーゾーンの問題に対しては対処が難しい、あるいは「立法論」であるとして指摘に対して評価が低いケースも、私自身が長年、多数経験してきました。

「情報倫理」「生命倫理」「AI倫理」「医療倫理」・・・。

 これら「倫理」の問題は総じて「法理」で裁くことができず、今後の法制度整備に役立つ「立法論」の範疇に属する場合が多い。

 我々研究室が取り扱う「医療AI」を巡る「倫理」問題の多くは、近い将来、法制度が整備され、罰則規定などが導入されれば「法理」の問題に組み込まれるケースが多い。

 同様の問題をここでも指摘できます。

 一般ユーザーでも、ノウハウさえ知れば容易にネット上で模倣可能な世論誘導、メディア・マインドコントロール手法には、明確な法の線引きと、罰則規定による再発防止が有効です。

 それは、かつて「オウム法廷」に20余年関わった一個人として、確信をもって明記する次第です。