平賀源内が重三郎の依頼に戸惑った納得のワケ

 ドラマでは、横浜流星演じる蔦屋重三郎が「源内を知っている」という男性にすがる思いで接待するが、実はその男が源内本人だったと発覚。安田顕演じる平賀源内に、なんとか吉原の良いところを見てもらって、魅力的な序文を書いてもらおうとする重三郎。

 だが、一つ大きなハードルがあった。ドラマで源内自身が次のように説明している。

「けど、マジメな話、俺じゃねえほうがいいと思うんだけどな。あのさ、オレ、男一筋なのよ」

 重三郎もはっと気づいて「平賀源内っていえば、有名な男色じゃねえかよ……」と、盲点に気付いてがっかりしている。

 実際の平賀源内も男色(なんしょく)家として知られており、「風来山人(ふうらいさんじん)」の名義で『三の朝』という男色細見記も書いている。源内が特別だったわけではなく、江戸時代前期においては、男色文化が全盛期を迎えたとされている。といっても、成人男性同士の対等な同性愛ではなく、成人男性と未成年との間の少年愛が主流だった。

 優美な若衆姿(わかしゅうがた:男色の対象となる少年のこと)を数多く描いた画師の鈴木晴信は、源内とは住まいが近く親交があった。晴信の代表作『風流艶色真似ゑもん(ふうりゅうえんしょくまねえもん)』では、主人公の真似ゑもんが色道修行のために諸国を行脚する様子が描かれており、詞書で次のような意味のイジリを行っている。

「若衆好きの源内さん、若衆のいない木曾路はやめて、品川から出発したのは、こういうことだったのだね」

 確かに、そんな源内に吉原のガイドブックのまえがきを頼むのは、人選ミスかもしれない。だが、実際に源内が書いたものが残っているわけだから、そこに至るまでのプロセスをどう描くかが脚本家の力の見せどころとなる。

 ドラマでは、小芝風花演じる花魁(おいらん)・花の井が、源内にとって忘れられない男性である「二代目 瀬川菊之丞(せがわ・きくのじょう)」に扮するという機転をきかせて、源内の心を動かした。源内のリクエストで、二代目・瀬川菊之丞になりきった花の井が舞いを披露。そのアイデアによって、源内に序文を書いてもらうことに成功している。