岡山を出たタクシーは交通渋滞を避けるために、六甲山を越えて神戸市内に入るルートをとった。目的地が近づくにつれ、自動車販売店のショールームのガラスが大きく割れていたり、建物が崩落したりしている光景が目につくようになった。それだけで地震のエネルギーが伝わってくる。
夜の闇に浮かぶ赤い光
日が暮れはじめ、やがて「あの山の向こう側が神戸市です」とドライバーに教えられた頂の向こうを見ると、赤い光が煌々とさしていて、漆黒の頂をくっきりと浮かび上がらせている。私はすでに救助活動が活発に行われているものだとばかり思っていた。ところが、実際にその頂に立って神戸の街並みを見下ろして見ると違っていた。赤い光の正体は街を焼き尽くす火災だった。それも六甲の山々と大阪湾に挟まれて広がる神戸市のあちらこちらから、円形状に煙が上がり、炎が見える。
当時、ニュース番組のキャスターを勤めていた筑紫哲也は、ヘリコプターからこの光景を眺めて「まるで温泉街(おんせんまち)に来ているようです。そこらじゅうから煙が上がっています」とリポートし、顰蹙を買った。むしろ、いまで言えばミサイル攻撃を受けた都市のようだった。そう、現場はまさに戦場だった。
「これから、あそこに行きます」
燃える神戸の街を見ながら、3人のスタッフにそう伝えると、みんな覚悟を決めたようだった。それから市内に入ると、長田区の消防署に張り付いた。木造住宅が密集する地域ということもあって、ひっきりなしに出動が繰り返され、署長の顔には疲労が浮かぶ。現場では、家屋の倒壊などで混乱する狭い路地を消防車が走り抜け、時として炎が爆発を誘発して燃え盛る。