(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
ここ数日、韓国の世論調査に変化が見え始めている。
これまで韓国の国内世論は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の戒厳令を非難し、尹大統領の退陣を求める声一色であったが、現在は韓国内政の争いに注目が集まり、野党・共に民主党への批判が出始めている。
尹大統領の戒厳令は、与野党対立で内政が膠着する中で、これを打破することを目的に行ったものであるが、それは尹大統領および与党・国民の力にとって極めてまずい選択肢であった。そもそも民主主義国家としては、平時に戒厳令を出すことは許されないというのが一般的な見方であり、特に韓国においては、過去の軍政下で戒厳令による市民の弾圧(特に顕著なのは全斗煥時代の光州事件)を経験し、拒否反応が非常に強い。これを大統領として理解しなかったのは信じがたいことである。
それと同時に、戒厳令によって喜んだのは共に民主党とその代表の李在明氏であり、国民の力には何ら益がなかった。
李在明の大統領選出馬の道を開く尹大統領の弾劾訴追
李在明(イ・ジェミョン)共に民主党代表は、昨年11月15日、ソウル中央地裁で公職選挙法違反の罪により懲役1年、執行猶予2年の刑を言い渡されている。刑が確定すれば国会議員を失職し、大統領選挙にも出馬できなくなるところであった。今回の判決では、城南市長時代に起きた土地開発を巡る不正事件について前回の大統領選挙期間中の虚偽発言が問題視された。
この事件については、3カ月後の2月中旬に控訴審の判決が出る予定であり、さらに3カ月後には大法院判決となるが、李氏側は控訴審書類の受け取りを遅らせ、弁護人選定を先送りするなど遅延戦術を駆使している。
共に民主党側としては、李在明氏の控訴審、大法院判決が出て、大統領選出馬ができなくなる前に、尹大統領に対する弾劾判決を出し、大統領選挙にもっていくことを目指しており、どちらの判決が先にもたらされるかの勝負になっている。
仮に李在明氏が立候補できれば、現在次期大統領候補として33%の支持を得ており、次点の金文洙(キム・ムンス)雇用労働部長官の8%を大きくリードしているため、大統領当選の可能性は高いであろう。