泥仕合いは終わらない

 弾劾訴追案が可決されたので職務停止となっている身の上だから、政治活動をしているわけではない。あえて挙げるなら、非常戒厳は内乱罪にあたるとする野党の告発を受けた警察が出頭を求めたものの、尹大統領はこれを拒否。逮捕状が発給されて、3日には合同捜査本部が大統領公邸に入ったが、警護庁がこれを阻止した。その後、公邸にはバリケードが設けられ、有刺鉄線が張り巡らされた。

 なりふり構わない泥仕合いが繰り広げられているというのが、韓国政界の現状だ。

 こうしてみると、尹大統領の支持率向上の理由としては、李氏をはじめとする野党側のオウンゴールとするのが最も適切だろう。そもそも3年前の大統領選挙以降、李氏が国政の方針を国民にどれだけアピールしてきたのかは疑わしい。むしろ、与党への批判と反日的な言動によって支持を得てきた

 もちろん支持率は常に変化しており、状況によっては尹大統領の支持率が今後、急降下する可能性も十分にある。

 とはいえ、庶民に見えてくるのは政党間の争いばかりだ。政治家がどんなビジョンをもって、どんな政治をしたいのかが全く見えてこない。

 だからこそ、支持率はその時々の状況に流されて大きく変動してしまう。

 それは民主主義を「誇り」とする韓国にとって、不幸この上ないことだ。それでなくとも、李氏は自分で自分の首を絞めている。

 はたして、韓国の政界はそれにいつ気づくのだろうか。飽きもせず対立ばかりを繰り返してきたのだから、それを期待するのはどだい無理なのかもしれない。

平井 敏晴(ひらい・としはる)
1969年、栃木県足利市生まれ。金沢大学理学部卒業後、東京都立大学大学院でドイツ文学を研究し、韓国に渡る。専門は、日韓を中心とする東アジアの文化精神史。漢陽女子大学助教授。