暗号資産の登場、金地金の再評価が意味すること

 また、通貨の歴史を繙けば、米国政府の信用に裏付けられた国際通貨システムから逃げるように、暗号資産(仮想通貨)が生まれ、金地金の再評価が進んでいる。これらは、発行額を容易に増やせないないという特徴がある資産であり、溢れ出る不換紙幣(金や銀といった貴金属との交換を前提としないため、発行額の制約がない紙幣のこと)の対抗馬として再評価され始めているのである。

 つまり、マイナス金利、増殖する金融資産、暗号資産等の再評価といった兆候が示すように、1970年代以降の不換紙幣を基にした金融秩序の歪みが表面化しているわけだ。

 ニクソン・ショック級の通貨システムの転換には至らないとしても、際限なく増殖してきた紙幣や預金への疑問が生じてきていると言ってもよいだろう。グローバル金融危機やコロナ危機に際して、主要中央銀行が実施した量的金融緩和は、その極端な事例の一つでもあった。

 1970年代に労働分配率がピークアウトする過程で、低金利が進む中で金融資産が累増し、グローバルで格差が拡大してきている。しかし、歴史のパターンに則れば、疫病の影響で労働人口が大幅に減少し、賃金上昇をもたらしたため、拡がった格差は是正されてきた。

 現代は、日本・欧州をはじめとする先進国だけでなく中国でも進む生産年齢人口の減少がボディーブローのように賃金上昇圧力を高めている。大規模企業が採用し始めている人的資本経営の潮流も、従業員への分配を厚くするようになっており、賃金上昇はグローバルな動きになっている。

 ところが、低金利の常態化に促されて資産価格の上昇が続いているため、格差は縮小するどころか拡大している。歴史的なパターンとは異なるため、居心地の悪さが残るようになっているのである。

 2025年は、歴史のパターンと異なる現在の状況が続くのか否かにより、金融市場の方向性を左右する年になりそうだ。

 仮に、現状が続かず歴史的なパターンに回帰するならば、シナリオは2つ考えられる。第一のシナリオは、賃金・物価上昇が再燃し、資産価格の上昇を抑え込むケース。第二のシナリオは、賃金上昇が沈静化して資産価格が上昇し続けるケースである。物価の歴史からも賃金上昇が注目されることになりそうだ。

※本稿は筆者個人の見解です。実際の投資に関しては、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。YouTubeで動画シリーズ「ハートで感じる資産形成」(外部サイト)も公開しています。

平山 賢一(ひらやま・けんいち) 東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト
1966年生まれ。資産運用会社を経て、1997年東京海上火災保険(現:東京海上日動火災保険)に入社。2001年東京海上アセットマネジメントに転籍、チーフファンドマネージャー、執行役員運用本部長を務め、2022年より現職。メディア出演のほか、レポート・著書などを多数執筆。主著に『戦前・戦時期の金融市場 1940年代化する国債・株式マーケット』(日本経済新聞出版)、『金利の歴史』(中央経済社)、『物価の歴史』(中央経済社)などがある。

著者の近著『物価の歴史』(中央経済社)