一方で現在は、数十年単位で繰り返される国際関係の悪化が続いているため、ある程度の物価上昇を受け入れなければならない。資材や製品のサプライチェーンや国境を越えた資金移動が、分断を理由に、数年から十数年は物価上昇圧力として働く可能性は否定できないからである。

賃金上昇圧力が高まる中での資産価格上昇

 また、わが国の場合、長く他地域よりも低いインフレ率を享受していたものの、安閑としてばかりはいられない。物価の歴史を繙くと、明治維新前後や第二次世界大戦前後には、急激な物価上昇が発生しているからである。

 日本のインフレ率は、長期にわたり安定的に推移する慣性がはたらくものの、変化する際には、反動的に大幅に動く傾向がある点には注意が必要と言えよう。

 わが国に限って言えば、物価急上昇は、約80年ごとの周期を伴い社会全体を揺るがしてきただけに、世界的な緩やかな物価上昇とは一線を画す可能性もあり、注意深く見守る必要がありそうだ。 

 ところで、歴史上のパターンを踏襲するならば、14世紀や17世紀の疫病流行後に労働人口が減少し、賃金が上昇する局面では、資産価格が頭打ちになる傾向があった。農地や資本を提供してきた富裕層にとっては、受難の時代を迎えていたのである。

 しかし、現在は、賃金上昇の圧力が高まるものの、資産価格も同時に上昇しており、歴史的なパターンを踏襲していない。

 国債利回りの歴史的下限であった2%割れが常態化する地域が続出し、マイナス金利も発生したトラウマが、低い金利収入を嫌った富裕層に、株式を含む多様な資産への投資を促したからかもしれない。