歴史的にも過激なインフレになった1970年代
各波動は、それぞれ「物価・安定均衡期」→「物価上昇・変動期」→「物価安定化期」という3つの期間から構成されるそうだ。物価上昇・変動期は、13世紀、16世紀、18世紀、20世紀が相当するため、数百年単位で物価上昇期が到来したと言える。
物価上昇が落ち着きを取り戻し、物価が安定化するのは、14世紀および17世紀のように、黒死病の流行による人口減少圧力が高まるケースだけでなく、19世紀のように産業革命の浸透により生産性が上昇するケースや、20世紀末のように情報社会化の世界的な浸透によるエネルギー需要の増加ペースが減退するケースなどが挙げられる。
過去100年程度を見ているだけでは気がつかないが、20世紀の物価上昇は、歴史的に過激なインフレであった。数百年単位で物価の歴史を繙くと、過去3回の物価上昇・変動期をはるかに上回るものであったからである。
高い人口増加率、産業化に伴うエネルギー価格上昇、グローバル経済を左右する大規模な戦争、ニクソン・ショックによる国際通貨システムの大転換といった要因が重層的にはたらき、歴史上も稀なインフレを発生させたと考えられる。
フランス革命からナポレオン戦争に至るフランスや南北戦争期の米国のように、局所的に発生するインフレ事例はあるが、世界中で同時発生的に高いインフレ率が続いたケースは少ない。
図1は、大きな変化を把握しやすいように、10年単位での英米のインフレ率をグラフ化したものである。
特に1971年に発生したニクソン・ショック以降に、モノやサービスの価格が上昇しているのに気がつくだろう。通貨の価値が低下したと言い換え得る。金地金を裏付けにした国際決済通貨である米ドルが、米国政府の信認を裏付けに発行される通貨に移行したショックは、国際通貨システム全体の位置づけを低下させたと言えよう。
単なる特定地域のみで採用される決済通貨の性格が変わったのではなく、米ドルという国際決済通貨が金との兌換を停止したため、物価上昇もグローバルに拡散したのである。現在進行中の2020年代は、ニクソン・ショック級の通貨システムの転換がなければ、1970年代に経験したような世界的な物価上昇には至らないということである。