早期停戦こそウクライナ復興への近道
今のように変動相場制度のままであれば、金利をもっと積極的に引き上げなければ為替レートの安定化は見込めない(図表3)。それに通常の固定相場制度を導入したところで、為替レートが維持できず、通貨の切り下げが頻繁に行われるようでは物価の安定は実現しえない。その点、カレンシーボード制の下では、通貨の安易な切り下げを防ぐことができる。
【図表3 ウクライナ通貨のフリヴニャと政策金利の推移】
カレンシーボード制とは、通貨当局が保有する外貨資産の相当分に、自国通貨の発行を制限する通貨制度だ。その際、特定の外国通貨と自国通貨の為替レートを法的に拘束することで、安易な切り下げを防ぐこともできる。深刻な経済への打撃に鑑みれば、輸出の振興よりも輸入の安定を図るべきウクライナにとって、この制度は導入に値しよう。
ウクライナとロシアの双方で「戦時経済化」が進んでいるが、経済の疲弊の度合いはウクライナのほうが明らかに深刻だ。確かに、ウクライナには、欧米日から支援があるため、停戦後の復興が見込まれる。それはロシアにはないわけだが、だからといって、ウクライナの経済の疲弊がこれ以上は進まないことに越したことはない。
ここでは立ち入らないが、停戦の条件に関しても様々な論点があることだろう。ただ、ウクライナ経済の復興という点で考えれば、停戦が早期に実現することこそ、望ましい展開である。傷が深まれば深まるほど、その治癒に費やされる時間も金銭も増えることになるからだ。こうした点につき、冷静な議論がなされてしかるべきではないだろうか。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。