なお普通の糊は0℃以下に凍らせると、水分がつくことで粘着力が弱まり、剥がれやすくなる。東西冷戦下、社会主義国の郵便局や警察には冷凍庫があり、国民の手紙を開封していた。開けられたくない国民は、封のところをテープでぐるぐる巻きにして投函していた。銀行のスペアキーの封筒も、こっそり家に持ち帰って冷凍すれば、痕跡なしで開封できた可能性がある。今は冷戦時代より質のよい糊があるが、要は使う糊の種類と量次第だ。

営業課長に与えられた大きな権限

 なお営業課長という役職は、銀行によって微妙に役割が異なり、筆者がいた都銀では、預金、為替、店頭相談、貸金庫、総務など、あくまで事務部門の統括責任者だった。一方、三菱UFJ銀行では、事務統括だけでなく、リテール(個人取引)部門のトップのような存在である。

 同行では、支店の支店長や副支店長は、稼ぎ頭の法人取引にほとんどの時間をとられ、ごく一部の富裕層以外はリテールにタッチしない。そのため営業課長は支店のナンバー3かナンバー4という高い職位で、リテールの支店長のような存在である。大卒の総合職の行員がキャリア形成の過程で任命されることはほぼなく、現場の叩き上げが任命され、昔からいる高卒の行員の一つの到達目標のようにもなっている。組織から信頼され、権限も与えられているので、営業課長が今回のように悪意をもって不正に手を染めると、歯止めが効きづらい。

 また、たいして儲からないリテール業務で、その中でも最も儲からない貸金庫ということで、銀行の注意が向いておらず、それが今回の盲点につながった面もあるはずだ。

*後編に続く