欧州とロシアの国内事情が及ぼす影響

 NATOへの加盟に代わり、欧州の有力国が個別にウクライナと安全保障条約を締結し、それらの国からウクライナへ駐留軍を派遣すると言うなら、ロシアは百歩譲ってそれを認める見返りにウクライナの軍備制限、特に長距離兵器を保有させない形を最後まで要求するだろう。

 それでは欧州・ウクライナにとっての軍事バランスが保てない、となれば、米国がウクライナと安全保障条約を結ぶしか対抗策がなくなり、トランプ大統領がそれをどう判断するかである。

 この問題の決着に時間がかかると読めば、ウクライナは停戦前に欧州各国からの駐留軍派遣を画策するだろう。

 それを止めるべく、ロシアは欧州への威嚇戦術の程度をさらに引き上げるかもしれない。その新たな緊張関係の緩和にも、結局は米国が引っ張り出される羽目になる。

 欧州からウクライナへの駐留軍派遣は、停戦後の協定順守を監視するための平和維持軍の配置とも議論が重なってくる。

 欧州勢のみからなる平和維持軍は恐らくロシアの認めるところではない。米国がそれに加わっていないとしても、である。

 ロシアもウクライナが停戦協定を破って領土奪回戦に再度乗り出して来ることを警戒しているからだ。

 平和維持軍が西側だけで構成されるなら、ウクライナが不穏な動きに出ても見て見ぬ振りをしかねない。

 そうなると、国連の指揮の下で平和維持軍を送るか。

 だが、国連安保理が真面に機能していない状況の下でその派遣に現実味が有るのか、それが無理なら非欧州国からも派遣するのか、ならばその費用は誰が負担するのか、等々の話にまで発展して行きかねない。

 あれやこれやで議論の種は尽きない。

 欧州とロシアとの間の妥協は、欧州各国の経済や内政での問題がより深刻化し、ロシアも戦時経済を継続することへの不具合が顕在化する、といった双方の国内事情が、交渉のマラソンレースに終止符を打つ時まで待つしかないのかもしれない。

 最後に、ロシアが要求する西側の経済制裁解除は、西側も簡単にはそれに応じられないし、応じてはならない。

 原理原則の問題が絡むからである。

 どのような経緯・背景があるにせよ、先に正規軍を相手国に侵攻させたのは間違いなくロシアであり、武力による国境侵犯を行ったことへの罰は下されねばならない。

 結果として、それが露中関係のさらなる緊密化を招いたとしても、これは曲げてはならない鉄則なのだ。