トランプ新政権にできること
トランプ氏との会談を望むプーチン氏も、ロシアの要求やその趣旨をトランプ氏がすぐに認めると予想するほどナイーブでもなく、トランプ氏や米国を信用するから会談するということでもない。
口で何を言おうと、トランプ第1期政権時代の対ロシア外交での実績(対露経済制裁他)を思い返せば、彼の判断だけで米国の政治を切り盛りできるものではないことがはっきりしている。
そして、トランプ大統領の要求は戦いを止めろということであって、決してロシアの対ウクライナ侵攻を肯定するものでもない。
さらに、トランプであろうとなかろうと誰がトップに立っても、今の米国はその国内政治の仕組みそのものが過度に不安定なものとなっており、その治癒にはかなりの時間が必要だ、とプーチン大統領は見ている。
仮にトランプ氏と意気投合できたとしても、4年後以降にまた民主党政権に代わり、緊迫した両国関係へ逆戻りとなるかもしれない。
しかしそれでも、全く話し合う余地が見えない現バイデン政権の原理主義的な立場に比べれば、トランプ氏の方がまだマシということなのだ。
彼を相手に、物事を少しずつでも解決に向かわせる協議や妥協の積み重ねは可能なのではないかと踏んでいるのだろう。
そのプーチン側から出されるであろう要求には、既占領地域(クリミアと東部・南部の4州)のロシアへの併合承認と、ウクライナのNATO非加盟および軍備の制限を伴う中立化や、ウクライナ領内の非武装地帯の設定がまず挙げられる。
その上で、欧州を巻き込んだより広範囲の新たな安保体制構築とそれへの米国の関わり方についてプーチン大統領は論じ合うことを考えているはずである。
一方、返り咲きのトランプ新大統領が、停戦に向けて実際にどのような方針を選択するのかはいまだはっきりしない。
これまでに彼や副大統領となるJ.ヴァンス他の顧問たちが断片的に述べてきたことから推測すれば、まずは停戦を求め、ロシア軍が支配するウクライナ領を当面ロシアの占領下に置くことを認め、ウクライナのNATO加盟をすぐには認めない、という線が濃厚のようにも見える。
これらはいずれもロシア側の主張を受け入れたかのように聞こえる。しかし、議論が具体的な取り進め方に入ればそうとも言えなくなる。
ロシア軍の占領地域へのロシア支配を当面認めるとは、それがロシア領となったことを正式に認めるものではあり得ない。
ロシア軍を占領地域から追い出せないという事実を追認するだけであり、本来のウクライナ領であることを否定するものではない。
ではどうするのかだが、過去の世界の領土問題解決例を見れば、5年なり10年なりの期間を置いて、住民投票で当該地域の帰属を決める形に持って行くしかないのだろう。
その間は、ロシアの占領は国際法に反するがやむを得ない、という扱いになる。