楽観的な電力会社と自治体、避難も救援もできない現実

 中国電力は、東電事故後に耐震補強を実施し、大きな揺れでも事故は起きないとしている。しかし運転開始から36年にもなる原発に、後付けの安全対策を施しても、活断層を想定していない設計の弱点を100%カバーできるわけではない。設計段階から耐震強度を上げ、各種の安全設備も備える新しい原発に比べるとリスクは大きい。

 宍道断層が地震を起こしたら、約1万4000棟の建物が全半壊すると県は予測している*8。これは活断層の長さを22kmとして計算しており、39km、もしくはそれ以上の活断層が動けば被害は拡大する。

*8 島根県地域防災計画 震災対策編(2024年3月)
    島根県地震・津波被害想定調査報告書(2018年3月)

 地震と原発事故が同時に発生する原発震災では、避難や救援が難しくなる。東電事故では、津波の被害を受けた地域で、助けを求める声や物をたたいて居場所を知らせる音がしていたのに、被曝を避ける避難指示が出されたために捜索が中止され、結局、現地に入って捜索できたのは1カ月以上あとになったところがあった。能登半島地震でも原発30km圏内で、複数の橋が通行止めになって迂回路が無くなった地域や、土砂災害で孤立し、逃げることも救援に向かうことも困難な地域があった。

 それでも島根原発を動かそうというのは「大きな地震は滅多に起きないから大丈夫」と、中国電力も地元自治体も楽観しているからだろう。

 新潟県中越沖地震(2007年)で柏崎刈羽原発が震度7に襲われた後、東電は「何百年に一度というような大きな地震は続いては起きないだろう」と高をくくり、必要だとわかっていた福島第一原発の津波対策を先延ばしした。今の中国電力や自治体も、当時の東電と同じような思考に陥っているように見える。そして東電は4年後の2011年に大災害を引き起こした。

 たとえ発生頻度は低くても、最低限必要な備えはすぐにやる。それが東電事故の教訓だ。再稼働するならば、少なくとも避難路の安全確保や、災害対応の司令塔になる県庁の耐震補強を終えてからにするべきだろう。

 米ニューヨーク州のショアハム原発は1984年に完成したが、避難計画が承認されず、一度も営業運転されることなく廃炉された。島根原発30キロ圏内には体が不自由で避難に手助けが必要な高齢者らも推計約4万人いる。すべての人が安全に避難できる対策がとれないならば、原発を動かしてはいけない。