災害対策本部が置かれる県庁6階と知事室などがある3階は部屋の空気圧を高めて外部から放射性物質が入らないようにできる。原発事故で住民の避難が必要になった際には、県庁で働く2千数百人の職員のうち約600人は災対本部に残り、30キロ圏内の最後の一人が逃げ終えるまで対応するのだという。
しかし、いざというとき本部機能を維持できるかは疑わしい。築65年を超えた県庁舎は「地方におけるモダニズム庁舎建築の好例」として、国の登録有形文化財に指定されている。細い柱、大きな窓が並ぶ外観は優美だが壁は少ない。1995年に耐震診断をしたところ現行耐震基準の半分程度の強度しかなかった。2004年と2013年に筋交いを入れるなどの耐震補強をして現行基準程度は確保している。ただし現行基準は、中にいる人の命を確保する水準で、使い続けられる性能は保証していない。
国土交通省は、災害対策を指揮する重要施設に「大地震後も構造体の補修をすることなく使用できる耐震強度(一般の耐震基準の1.5倍)」を求めているが*2、県庁舎はその水準に達していない。学校に求められる水準(同1.25倍)にも達していない。その強度で、気密性が要求される放射線防護ができるとは考えにくい。
*2 島根県庁は、Is値0.702を目標に補強されている。
(参考:清瀬市HP〈国土交通省 官庁施設の総合耐震計画基準〉)
今年1月の能登半島地震では、志賀原発の周辺にある20の放射線防護施設のうち、6施設は揺れのため防護機能が使えなくなっている*3。
*3 内閣府(原子力防災担当) 令和6年能登半島地震に係る志賀地域における被災状況調査(令和6年4月版)
島根県は「仮に本庁舎が被害を受けたとしても、柱等を補修することで機能維持は可能。万が一、使えない状況となれば、代替施設への移転も含めた対応を検討する」と言う。しかし柱の補修はすぐにはできないだろう。災害直後、渋滞が起きたり避難路が使えなくなったりしている最中に、それも高い放射線量のもとで600人の本部機能をスムーズに移転できるとも思えない。
緊急輸送道路の橋、耐震化はこれから
松江城天守から南を見ると、宍道湖のほとりにある街の様子を一望できる。この城下町は、湿地や入江を約400年前の松江城築城時に埋め立てて造られた。橋と水面が織りなす水郷の風情は、遊覧船による堀川めぐりでも人気だが、災害時の弱点も示している。
松江市は、緊急輸送道路や想定緊急避難路になる23橋、高速道路をまたぐ3橋など計29の古い橋について、優先して耐震化を進める計画を昨年まとめた*4。しかし補強の計画が一つの橋で動き出したばかりで、完了したものは一つも無く、すべてが終わるめどはたっていない。市が管理する1220の橋全体では、築50年以上の古いものが52%を占める*5。
「構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態」と診断されているのに、修繕が進んでいない橋も約200ある。緊急輸送道路や想定緊急避難路だけでなく、各家庭からそこにつながる街中の小さな橋もあちこちで寸断される恐れがある。
県は「避難ルート上にある橋梁の耐震化や法面の危険個所の対策など道路防災対策を着実に進めている。使えない場合は、代替ルートで避難してもらう」と説明している。