寒帯前線ジェット気流の大蛇行

 じつは、北極振動は寒帯前線ジェット気流の流路とも密接に関係しており、このことも日本列島を凍えさせる要因となっています。「寒帯前線ジェット気流」は偏西風の一部で、最も高緯度で吹いているジェット気流です。その北側には寒気が広がっています。

 北極振動が負の状態のとき、寒帯前線ジェット気流が弱まり、大きく蛇行するようになります。そして、日本列島より低緯度まで南下すると、ジェット気流の北に広がる寒気が日本を覆うのです。つまり、負の北極振動と寒帯前線ジェット気流の大蛇行の2つの作用により、日本は厳しい寒さに見舞われたのです。

 なぜ負の北極振動のときに寒帯前線ジェット気流が弱まるのかというと、負の状態のときは寒気が中緯度地域に流れ込むため、北極域と中緯度域の気温差が縮小するからです。気温差が小さいと上空の気圧差も小さくなり、したがって吹く風(ジェット気流)も弱くなるのです。

 北極振動と寒帯前線ジェット気流の蛇行には密な相互関係がありますが、必ず前者が原因で後者が結果であるのではなく、ジェット気流の蛇行が原因の場合もあります。何らかのきっかけで先に寒帯前線ジェット気流が蛇行し始めたことで、北極振動が生じることもあります。

 では、北極振動が負ではなく正の状態に振れると、日本の冬はどうなるのでしょうか。そのときは中緯度地域の気圧が平年より高くなるので、北極域と中緯度地域の境界が安定し、寒帯前線ジェット気流はほぼ直線的に強く吹きます。そのため寒気は北極域に閉じ込められて南下できなくなり、寒さは緩みます。

【図2:寒帯前線ジェット気流の蛇行】 平成17年(2005年)12月の偏西風(寒帯前線ジェット気流を含む)の大蛇行。このとき、負の北極振動とラニーニャ現象が重なり、偏西風が日本列島の南まで蛇行したため、強い寒気が列島を覆った 出典:気象庁報道発表資料(2006年1月25日)