そして、公明党の場合
櫻井:公明党の場合は、国が創価学会を推しているとは言えないものの、自民党と公明党の関係はこの20年来とても深い関係があります。
公明党は国会議員51人、地方議員2866人を要する中政党であり、中央と地方の政治において自民党と公明党・創価学会は協力関係にあります。この協力の中身が、日本社会の公益に必ずしもつながらず、自民党と公明党の支持者だけの利益となってしまうならば、政教癒着として批判すべきことです。
──創価学会は強い集票力があることが知られています。宗教で集まった人々が公明党や自民党など、特定の政党にごそっと投票すること自体が政教分離に反しているように見えます。
櫻井:創価学会は1964年に公明党を設立することで、宗教団体と政治団体を分けたと宣言していますが、公明党の議員が創価学会の学会員であることは事実です。
公明党を主として支持している方々は創価学会の会員です。ですから、公明党が創価学会の意向を受けて活動しているのは自明のことです。私は創価学会と公明党を「政治宗教」という言い方で表現していますが、巨大な教団信者の集票力を政治力に変えてさらに教勢拡大を目指す、極めて政治的な趣向性の強い宗教だと思います。
──創価学会・公明党が「政教分離の原則に反している」とまでは言えないのですか?
櫻井:特定の宗教団体が政治の権力を借りて、その宗教を信じていない人たちの信教の自由を侵害したり、抑圧したりすれば違反です。公明党が日本の宗教行政に介入することがあれば違反になりますが、それはありません。
ただ、統一教会による霊感商法や正体隠しの勧誘を防止する「不当寄附勧誘防止法」が2022年末に成立する際、自民党や公明党は立憲民主党や日本維新側から提案された「カルト規制」や「マインドコントロール防止」といった観点と対応を、宗教側に配慮してかなり緩めた法律にした経緯があります。どこに配慮したかは明らかでしょう。
これも触れておきたいのですが、公明党が推し進める、創価学会員含めた支持層や低所得者層の人たちに向けた給付金政策が、結局のところ、政府の累積債務を増加させ、未来世代にとって重荷になっているという事実です。野党も含めて与党側の当面の選挙戦を勝利したいという短期的な戦略が、日本の長期的な財政運営を誤らせている懸念があります。
宗教は、政治と異なる理念と長期的な展望をもって現代政治を批判する役割を担うべきですが、政治宗教は逆で、権力を指向するために宗教理念と長期的展望を失っていくのです。
櫻井義秀(さくらい・よしひで)
宗教学者
1961年、山形県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程中退。博士(文学)。北海道大学大学院文学研究院教授。専攻は宗教社会学。著書に『東北タイの開発僧 宗教と社会貢献』(梓出版社)、『霊と金 スピリチュアル・ビジネスの構造』(新潮新書)、『人生百年の生老病死 これからの仏教 葬儀レス社会』(興山舎)、『東アジア宗教のかたち 比較宗教社会学への招待』(法藏館)、『統一教会 性・カネ・恨(ハン)から実像に迫る』(中公新書)、『信仰か、マインド・コントロールか カルト論の構図』(法蔵館文庫)など多数。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。