11月の終わりに「クーデター未遂」があった?

青山:石油取引に頼るシリアの経済力は、アメリカをはじめとした西側からの経済制裁が解除されないと回復は不可能です。

 私は2018年から何度もシリアに足を運んでいますが、年々、国民生活は悪化しています。最後に現地に赴いたのは2024年8月ですが、停電は日常的ですし、通信インフラも悪化しています。生活必需品こそあるものの、ぜいたく品は少なく、シリア国民も足下の経済状況には大きな不安を抱えていました。

 イラン・ロシアからの支援もあり、アサド政権は内戦を一応は解決していたので、シリア国民のアサド政権への求心力が低下していた、というほどではありませんが、生活に苦しんでいたのは事実です。

 また、23年の大地震は生活苦にさらに拍車をかけました。シリア軍も復興にリソースを振り分けるべく予備役を解除し兵力を減らすなど、十分な訓練ができていない印象がありました。

 その結果、軍内部では統制が乱れていたと言われています。11月30日、首都ダマスカスでシリア軍の先鋭部隊と治安維持にあたる共和国護衛隊の局所的な戦闘があったとの情報もあります。戦闘の理由を、クーデターを企てる軍人がいた、と分析する専門家もいるほどです。シリア軍内部の士気低下も、今回の政権崩壊の一因として見過ごせない要素です。

 11月30日にはすでにアサド氏は安全な場所に隠れていたとも言われています。シャーム解放機構が独力で「シリアの民主化」を成し遂げたわけではなく、イスラエルとトルコの利害の一致、国内経済の悪化とそれに伴うシリア軍の混乱がこの突然の政権崩壊劇を成し遂げたと見るのが自然です。

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