差別の温床になる懸念

 自由主義経済の下では、同一市場では「一物一価」が基本的な考え方です。一物二価、一物三価といった状況が生じると、人々は自由経済の恩恵を受けることができなくなり、差別の温床になりかねません。

 実際、訪日観光客に対する二重価格については、多くの慎重意見があります。

 前出の通り、大阪府では外国人観光客への「徴収金」制度の導入に向けた検討が始まっていますが、有識者を集めた調査検討会議では税制・財政の専門家から「税制度において外国人とそうでない人を区別して、異なる扱いをしている例はない。外国籍という理由で不平等な扱いをすることは、租税条約や憲法の平等原則に抵触する可能性がある」との指摘が出されました。

 オーバーツーリズム対策で財源が必要であれば、現行の宿泊税を引き上げる方が妥当というわけです。

 この問題は国会でも論戦の対象になりました。2024年4月の衆議院国土交通委員会。テーマになったのは、観光客が増えすぎて市民が乗るのも難しくなってきた京都市営バスの問題です。京都市は解決策として「日本人と外国人観光客」ではなく、「京都市民と市民以外」という形で運賃に差を付ける考えを打ち出しています。

京都も訪日外国人観光客でごった返す(写真:長田洋平/アフロ)

 これに関して、京都選出の自民党議員から二重価格に関する見解を問われた国土交通省の公共交通政策審議官は次のように答弁しています。

「乗合バスの運賃は、道路運送法で特定旅客に対する不当な差別的取扱いを禁じている。(何が不当差別かは)個別に判断することになるが、一般論として申し上げれば、人種や性別など利用者の属性を理由に同一区間で異なる運賃額を設定することは、法律が禁じている不当な差別的取り扱いに該当するおそれがある」

 この答弁に限らず、研究者や専門家の間では、二重価格に慎重な意見は少なくありません。国籍や人種などによって二重価格を設定することは、そもそも人権や自由の不当な制限につながりかねないというわけです。

 アジアからの観光客の多い日本では、外見だけで日本人か外国人かを判断することが難しいため、外国人価格を徴収する際にトラブルが多発しかねないとの懸念もあります。ただし、インドのタージマハル、エジプト・ギザのピラミッド、ペルーのマチュピチュ遺跡など海外では外国人の料金を数倍高く設定する仕組みは広く浸透しています。