カネも不足しているロシア
他方で、ロシアではカネも不足している。高インフレを受けて中銀が利上げを進めており、市場からカネを回収しているためだ。米ドルに代わって企業の資金取引に用いられるようになった人民元も、その需要の強さに供給が追い付いていないため不足している。つまりヒトとモノだけではなく、ロシアではカネも不足していることになる。
今年に入ってウラジーミル・プーチン大統領は、新興国に対して米ドル以外で決済を行うように呼びかけを強めた。12月には、代表的な暗号資産であるビットコインの利用を呼びかけたが、裏を返せばこのことは、ロシア国内でいかに外貨、とりわけ人民元資金が不足しているかを物語る、端的なエピソードだといえよう。
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実際にロシア国内の人民元金利は、中国の政策金利に比べるとかなりの高水準である。つまり、それだけロシア国内における人民元資金が不足していることだ。一方、ロシアでは、高インフレを受けて中銀が利上げを進めた結果、ルーブル金利が上昇している(図表3)。つまりルーブルの回収によってルーブル不足が進んだわけだ。
【図表3 ロシア国内の人民元およびルーブル金利】
ミクロ的、局所的に体験すれば堅強に感じるロシア経済だが、マクロ的、大局的には、不足の問題が着実に進行していると判断される。言い換えれば、ミクロ的、局所的に体験しても、モスクワやサンクトペテルブルクのような大都市で不足の問題が意識されるようになった時、問題は相当、進行していると判断できるのではないだろうか。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。