再び「不足の経済」に陥るロシア 

 かつてハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュは、東欧やロシアの前身国家であるソ連の経済を「不足の経済」だと評価した。計画経済の下では、政府が需要を予測し、企業に生産を命じる。そうすると、需要と供給に著しいズレが生じる。あるモノは余りあるほどとなり、あるモノは極端に不足する。その結果、国民生活は疲弊する。

 極端な例を出せば、ソ連にはミサイルに代表されるたくさんの軍需品が存在した。一方で、衣食住に関係するモノは日常的に不足し、国民は配給制に基づくモノの調達を余儀なくされた。そして、ソ連国民は配給を待つために、商店の前に長蛇の列を形成した。この長蛇の列は、価格に反映されないインフレという意味で「抑圧インフレ」と呼ばれた。

土田氏の新著『基軸通貨

 現在のロシアではまだ市場経済が機能しているが、戦時経済化が進む中で、政府による経済運営は計画経済的な性格を強めてきている。戦争の長期化でヒト・モノ・カネといった生産要素を軍事経済の運営に集中せざるを得ない以上、平時経済の運営に当てることができるヒト・モノ・カネは限定的であるから、国民の生活は圧迫されてしまう。

 ヒトの面に注目すれば、地方の人手不足はことさらに深刻と想像される。報道によると、戦争に徴用されるロシア国民は都市ではなく地方の国民が多いようだ。言い換えれば、地方からヒトがいなくなっていることになる。帰還できても、そうした国民の多くが傷痍軍人であるから、徴兵前と同様に働くことができるケースの方が稀だろう。