香港国家安全維持法が2020年6月末に施行されて以来、香港の自由や自治が大きく制限されているではないかと指摘したところ、中国本土と香港の自由度は議論の余地があると言う。どうやら、香港は経済が発展していてVPNの月額料金が中国本土よりも高くつくが、VPNなしでアクセスできるコンテンツはまだ中国本土よりも多いから、判断が難しいということのようだ。彼らにとっての自由とは、自由なインターネット空間にアクセスすることであり、それに必要なお金が自由度を測るものさしになっているのかもしれない。
大学でも見かける〈国家安全部っぽいおじさん〉
中国において自由な情報発信や情報収集を妨げている政府機関の一つが国家安全部である。国家安全部は、主に国内外の諜報活動、反スパイ活動、国家の安全保障を担う機関である。もちろん私自身に接触してくることはなかったが、〈国家安全部っぽいおじさん〉は最近大学でも多く見かけるようになったという。
大学の授業や講演会に来て、録音していることもあるらしい。中国の博士課程にいる外国人留学生によると、インターネット上の検閲以外にも人間による監視を受けているようだ。
その留学生は、〈国家安全部っぽいおじさん〉と〈近所の交番のおじさん〉のおじさん2人体制で監視されているとの話であった。前者は、中国の会社でインターンをしたときに上司に紹介され、以後月2回ほど微信(WeChat)で連絡が来てお茶に誘われる。後者は、登録しているアパートに実際に住んでいるかを定期的にチェックしに来る。こうした環境の生活にも慣れるようで、「せめてイケメンがよかったのに」と冗談を飛ばすほど、監視は日常化してしまっている。
中国の若手研究者たちは、自由とは何かという問いに対し、西側とは異なる答えを持っている。中国版のポリコレにせよ、習近平思想の丸暗記にせよ、共青団への参加にせよ、これらは彼らにとって、中国共産党が領導する社会でキャリアを構築し生きていくための「生活の知恵」だ。アメリカの文化にいまだに慣れ親しんでいる人も多いことをふまえれば、思想的に先鋭化している人はそこまで多くないのではないだろうか。
彼らが真の自由を持っているとは言い難いと感じるが、彼ら自身は制約された環境のなかでも楽しさを見出している。そもそも西側社会にいると、中国の若手研究者と交流する機会自体が減るが、彼らがどのような構造の環境に置かれているかを理解するのは、中国発の知的アウトプットを精緻に理解する上でも重要だろう。
佐々木れな
(ささきれな) ジョンズ・ホプキンス大学SAISの博士課程在籍。パシフィック・フォーラム次世代ヤング・リーダーズ・プログラムのフェロー。経営コンサルティング会社Strategy&でシニアアソシエイトを務め、防衛省および防衛装備庁、防衛産業界で防衛・安全保障プロジェクトに5年以上携わった経験を持つ。ジョージタウン大学外交政策大学院で外務修士号を取得。
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