確かに、アメリカの外交政策についてはネガティブな評価が多かったが、アメリカの文化はいまだ根強い人気がある。というのも、大学入試や就職市場で厳しい競争に直面し、「双清」(学部も修士も清華大学)でなければ良い仕事につけないという中国の若者の心の隙間を埋めているのが、VPN(仮想私設通信網)で視聴するアメリカの音楽や映画なのだ。VPNを使ってアメリカのエンターテインメントにアクセスすることは、彼らにとって大切な自由の一部でもある。

ほぼ全員が共青団に加入

 だが、それでも中国の若手研究者は体制の中で生きている。それを象徴するのが、共産主義青年団(共青団)の存在である。共青団とは、中国共産党の公式な青年組織であり、14歳から28歳の若者を対象に、共産党イデオロギーの理解を深め、次世代の指導者を育成することを目的としている。

 中国の名門大学で社会科学系の博士課程に在籍する若手研究者は、ほぼ全員が共青団と共産党に入っているようだ。すべての大学で聞いて回ったわけではないが、ある大学の法学部博士学生30人中、23人が共青団で7人が共産党員だった。14歳の時点で成績優秀な学生を教員(彼ら自身も共産党員)がリクルートする。その後は、共産党の史跡めぐりやキャンプなどの活動に参加する。大学以降は政治的な活動にも参加し、月1回程度の講演に感想文を提出する。多くの共青団員は共産党員を目指す。

 なぜ共産党に入りたいのか? と聞くと、キャリア上、役に立つことを理由にあげる人が多かった。ちなみに今回訪問した教授に共産党員かと尋ねたところ、若干気まずそうに全員が肯定した。

監視と自由のはざまで

 中国共産党が支配する現代中国の日常には、驚くほど快適な面もある。顔認証で自動決済できる自販機など、日本やアメリカにはない便利なサービスが広がっている。しかし同時に、常に監視されている感覚も伴う。中国の法律の研究者に聞くと「犯罪者じゃないから大丈夫」と言うが、西側では国家による個人の監視自体が人権侵害なのだから、中国のエリートは、やはり根本的に個人の権利のとらえ方が異なると感じた。

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