専門家もデータも不十分
特段面白い理由は存在しない。単に人手不足、なかでも専門家不足が主たる理由だ。
政治学者などの専門家が専門的な知見から分析するにはある程度、時間がかかる。そもそも眼下の時事的問題の速報的で一般的な論評は、現代の研究者にとって本来業務といえなくなっている。
同時に、日々の大学等のルーチン業務で疲弊していて、直接の専門でもない限り本格的な分析を行う余力はあまりない(すべての政治学者が選挙や投票行動に詳しいとも限らないし、地方政治に詳しいとも限らず、新しい事例をフォローしているとも限らないのである)。
大手新聞社やテレビ局などのジャーナリストは政局や動向、発言等の質的な情報にはめっぽう強いが、定量的な分析のトレーニングを積んだアナリストは多くはないというと控えめで、ほとんどいないのが現状だ。
政治報道に従事しているとも限らないし(そもそも地方選挙はマスメディアでは伝統的に主に社会部が担当する)、管見の限り、世論調査の分析や少し手の込んだものでもネットのデータの可視化などにとどまっているが、これはいわゆる記述的な分析であって、要素(変数)間の関係性やましてや因果関係の分析ではない。
分析的企業や特定のコンサルティングファームなどが「SNSの影響」を過度に強調するのはそれがビジネスだからだ。
上記の記事にも「政党がSNS戦略を憂慮」などということが書かれたものが見受けられるが、その場合にはかつては有名広告代理店を活用していたが、ネットに関してはネットに強い(≒ネットで目立つ)PR企業やインフルエンサーを登用することが散見される。
マーケティングの手法としてはある程度やむを得ないが、市民の利益や公益の観点で気になる点は少なくない。
そもそも分析しようにも、選挙の直後に速報的に入手できるデータ自体が不十分だ。しばしば参考にされるのは出口調査の結果で、それを割合で表現した図表だ。
「20歳代のN%が○○を支持」「60歳代のn%が××を支持」と解釈しがちだが、この傾向から「若い世代は○○を支持」と解釈するのは間違いだし、ましてや「若い世代の支持で○○が当選」という解釈もおかしい。
出口調査で明らかになるのは例えばあくまで「若い世代(年長世代)で投票にいった人」の傾向だけだからである。また世代ごとに人口ボリュームがかなり異なっている。
なおいろいろなバリエーションがある。「無党派層のうち〜」などがあるが、これも「投票に行った無党派層のうち〜」と解釈すべきで、「無党派層で投票に行かない層」も少なくないと思われる。
世代別の投票率は、特に地方選挙では明らかになるのにかなり長い時間がかかることが一般的だ。むろん兵庫県知事選挙のそれははっきりしない。
したがって分析できる有力データはまだ公開されておらず、ほとんどの「解釈」や「分析」は仮説であり、根拠があまりはっきりしない「ナラティブ」にとどまっている。