発展モデルとしての中国

 第二次世界大戦後は、近代化、「離陸」、つまり経済を発展させるためには、資本主義・自由主義モデルではなく社会主義・計画経済モデルを採用しようという発展途上国が多かった。それは、体制の優位性と腐敗の無さを宣伝するソ連のプロパガンダに影響されることが多かったからである。

 しかし、東ヨーロッパと西ヨーロッパ、中国と日本を比べれば、後者のほうが、繁栄を築いたために、ソ連型モデルへの幻滅が進んでいき、それがベルリンの壁の崩壊に帰結したのである。

 ところが、中国は、2010年にはGDPで日本を抜いて世界第2位に躍り出て、その後も2015年まで7%以上の経済成長を遂げてきた。新型コロナウイルスの流行、不動産不況というマイナスを経験した今日でも、なお5%前後の成長を維持している。中国のGDP実質成長率は、2023年が5.25%であり、2024年1〜9月は4.8%である。日本の2024年4〜6月期の実質成長率は0.7%に過ぎない。

 権威主義国家が、このような経済成長、しかもITやEVなどハイテク分野で世界最先端を行くとは、1989年の東西冷戦の終焉のときには考えられないことであった。ソ連邦の崩壊は、自由な情報の流通が国家権力によって妨げられ、それが情報関連産業の発展を阻害したからだという説明が一般的であった。

 ところが、政府による情報統制が行われている今の中国で、世界最先端のIT技術が花開いている。なぜなのか、その理由は識者によって十分に説明されていない。国家主導の研究開発が奏功したのか。あるいは、深圳のような「プロトタイプシティ」の試みが成功したのか(高須正和、高口康太編著『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』、2020年、KADOKAWA参照)。

 この中国の発展は、世界の発展途上国に権威主義モデルの優位性を示すことになっている。ブラジル、ロシア、インド、南アフリカとともに、中国はBRICSを形成し、グローバルサウスの評価を高めている。