2023年に異常事態が起きた理由

 前年の2022年はブナの実が豊作だったこともあり、熊は軒並み奧山にあるブナに集中し、私たちが普段、猟をする里山近くの山にはほとんど降りてこなかった。結局、その年は1頭しか授かっていない。捕獲頭数が減れば、必然的に翌年熊が増えることは想像できた。

根子集落のブナ林打当の奥、岩井ノ又のブナ林

 それに加え、2023年の春先は一向にブナに混芽がならなかった。つまりはその年の秋にブナの実はほぼならないということだ。そのため、冬眠前の熊が里に降りてくることはある程度覚悟していた。

 また、ナラやクルミなど、山に自生する木々のほとんどが実を付けず、唯一なるのは人が植えた栗、もしくは米で、そこに熊が来ることは周知の事実として地域では捉えられていた。

 案の定、9月からりんごと米から始まり、10月には栗などに熊が集中し、さらには今まで見ることのなかった蕎麦畑にまで熊が出没する状況になった。

 私たちにとって基本的に熊は逃げる動物だという認識だったが、冬眠前の熊は腹を満たすまでそこを動こうとはせず、人間が近づいても、ある程度の距離までこちらを見ているような個体もいた。

 その他にも、1つの田んぼの両端に別の親子熊がいたり、毎日同じ田んぼにいる個体など、今まで経験したことのないような熊の存在に違和感を感じずにはいられなかった。

 さらには報道でもあるように、山ではなく市街地での人的被害などと、まるで自分が今まで出会ってきた熊とは別の生き物を見ているような、そんな気持ちだった。

 早くこの騒動が落ち着けば良いのにと思いながら迎えた11月1日からの猟期。本来熊を探すはずの山に熊はいなかった。やるせない気持ちのまま、山には足が向かず、里の近くにいるヤマドリを探したり、きのこを採ったりしながら、冬を迎えた。