米大統領選でトランプ氏の勝利が確実となりました。今後、米国はどこに向かうのでしょうか。大統領選後の米国、世界、そして日本との関係を展望した記事を再掲載します。(初出:2024年11月1日)※内容は掲載当時のものです。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
同盟国を守るかは「見返り」次第
トランプ氏が勝利した場合、大きな転換が予想されるのは対外政策です。「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げるトランプ氏は、安全保障や経済で多国間の枠組みから距離を置いた「孤立主義」をとり、米国の利益の最大化を図るでしょう。
注目されているのは、トランプ氏が前回の大統領在任時(2017年1月〜2021年1月)から示唆してきた北大西洋条約機構(NATO)を離脱する可能性です。
NATOは主に欧州と北アメリカの32カ国が加盟する集団防衛の枠組みです。条約の第5条では、一加盟国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権を発動して武力攻撃を含め必要な支援を行う義務が明記されています。
トランプ氏はNATOの安全保障コストの大部分を負担しているのはアメリカだと主張し、「安保ただ乗りは許さない」として加盟国に一層の負担増を求めています。2024年2月には、拠出額の少ないNATO加盟国に関して「(金銭的義務を果たしていないなら)われわれは、あなたの国を守らない。むしろ、(ロシアはあなたの国を)好き勝手すればいいと促す」(No, I would not protect you. In fact, I would encourage them to do whatever the hell they want.)と述べ、責任を果たさない国は守らない姿勢を示しました。
NATO加盟を目指すウクライナへの影響も避けられないでしょう。トランプ氏が大統領になれば、ウクライナのNATO加盟を認めず、NATOを東方へ拡大しないことが予想されます。また、ウクライナ戦争においては、ロシアによるウクライナの一部占領を容認したまま、停戦に持ち込むのではないかと言われています。
イスラエルとハマスの戦闘ではイスラエル寄りの立場をとると見られています。ただ、トランプ氏には2020年に大統領としてイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国との平和条約「アブラハム合意」を成立させた実績もあり、その手腕に期待する声もあります。
アジア外交はどうなるでしょうか。
米国第一主義のトランプ氏は、対アジア政策でもこの地域の対立・紛争から距離を置く姿勢が見られます。緊張が高まる中国と台湾の関係では、中国から圧力を受ける台湾について「米国の半導体業界の仕事を奪っている」と指摘し、中国から守ってほしいなら対価を払うべきだと主張しています。
日本に対しても「守ってほしいなら対価を支払うべきだ」との姿勢を強めることが想定されます。トランプ氏はこれまで、米国は日本を守るが日本は米国を守る義務がない日米安保条約の片務性に不満を示したり、米軍駐留経費の一層の負担増を要求したりしました。「返済される見込みや何らかの見返りがない出費をするつもりはない」と語ったこともあります。大統領に就任すれば、日本に一層の負担を求めることが予想されます。