11月5日に行われる米大統領選挙は、民主党候補のハリス氏(現副大統領)と共和党候補のトランプ氏(前大統領)による一騎打ちで、どちらが勝つのか世界中が見守っている。両者の支持率は伯仲しており予断を許さないが、今回は特に超大国アメリカの世界戦略がガラリと変貌し、世界の軍事バランスも大きく崩れる危険性をはらむ。中でも「NATO(北大西洋条約機構)」「ウクライナ侵略戦争」の2大テーマが要注意で2人のスタンスは大きく異なる。ハリス、トランプ双方の思惑とリスクについて、軍事ジャーナリストの深川孝行氏が大胆に推測する。
ハリス氏の安全保障政策は優柔不断なバイデン路線を踏襲か?
ハリス氏はバイデン現大統領の政策を当分の間踏襲する模様で、外交・安全保障政策も同盟国との協調を重視すると明確に宣言している。
その意味ではNATO重視も変わらないが、ウクライナ侵略戦争でロシアの軍事的脅威が現実化し、低調だったNATO加盟国の国防費の大幅アップを今まで以上に強力にプッシュすることは確かだ。
現在は大統領を補佐する副大統領のため、安全保障分野で独自色は打ち出しにくく力量や指導力は未知数だが、もともと法律家でカリフォルニア州司法長官も歴任。正義感・順法精神が強く人権意識も敏感である。
ウクライナ問題については、大前提として国連憲章はおろか国際法を無視して隣国を侵略し、核の脅しもためらわない傍若無人なロシアのプーチン氏を、ハリス氏は「極悪非道のやから」と見ていると想像できる。
同様にロシア軍によるミサイルやドローンを使った一般市民への無差別攻撃も、非人道的行為で許し難いはずで、バイデン氏はあからさまにプーチン氏を「戦犯」と切り捨てるが、「法律家」ハリス氏も同感のはずだ。ウクライナ政策もバイデン路線を踏襲するようだが、戦争をどう終わらせるかという「出口戦略」が不明な点は気掛かりである。
バイデン氏はロシア軍が若干押し気味の、ウクライナ国内に引かれた全長1000km以上の戦線を大きく押し戻す“特効薬”を持っていない。となれば、最後はウクライナかロシアのどちらかが音を上げるまで消耗戦を続け、そこから和平交渉のシナリオに落とし込もうとしていると勘繰ることもできる。
バイデン氏の対ウクライナ軍事支援は慎重過ぎるとの指摘も多い。プーチン氏の「核の脅し」に過敏に反応し、結果的にウクライナを「生かさず、殺さず」の状態にとどめている。ウクライナのゼレンスキー大統領が次の一手を欲しても、優柔不断でなかなか首を縦に振らないという光景が、2022年2月の開戦以来続いている。