例えば、アメリカは韓国との同盟関係を結ぶことによって、北朝鮮を封じ込めるためだけではなく、李承晩大統領が北朝鮮に攻め込むことを封じたというのである。二国間で結ぶ同盟は相手国に対する強大な影響力を持つためにこそ重要だったというわけだ。

 逆に言うと、NATOのような多国間条約にしてしまうと、アメリカにとっては、各国の指導者の発言権が強まり言うことを聞かせられなくなるのだ。

 アメリカが日米同盟や米韓同盟のような二国間条約を結んだのは、日本や韓国への強大な影響力を維持するためであると同時に、(今ではあまり想像できないが)日本や韓国の「暴走」を止めるためでもあったということだ。

 その意味で、石破首相の「アジア版NATO」構想は戦後アメリカの対アジア政策とは根本的に相いれない部分がある。

 日本がアメリカ以外の国と安全保障上の協力を進めているといっても、それは正式な同盟関係ではない。その状況を拡大して、NATOのような集団安全保障体制にまで発展させることは一筋縄ではいかないし、アメリカの外交政策と衝突する可能性が高い。

 戦後日本の防衛政策、戦後アメリカの対アジア政策と照らし合わせてみると、アジア版NATOが実現する可能性は極めて低いと言わざるを得ないのである。