(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)
前例がない大規模なティザーキャンペーンを打った理由
スズキが10月16日に発表したインド製小型クロスオーバーSUV「フロンクス」。
「フロンクスはこれまでにない魅力が満載のクルマとして、新しい市場を切り開くモデルになると確信しています」
スズキの鈴木俊宏社長はメディア向け新商品発表会見の冒頭のあいさつでこのように語り、相当の自信を示した。
このフロンクス、スズキにとってはいくつもの重要なミッションを担っている。「スズキをもっと知ってもらい、愛してもらう」(鈴木氏)、すなわちスズキのブランド強化のトリガーとなること。
また2016年に投入したものの販売台数が振るわなかったインド生産モデル「バレーノ」のリベンジを果たすこと。そしてスズキが今年7月に公表したクルマの小型軽量化を柱とした環境戦略の旗手とすることなどだ。
>>【写真】2016年に発売したスズキ初のインド逆輸入車「バレーノ」
まずはブランド強化。スズキは発売に先立ち、7月から実車の展示を全国で行ったりウェブ広告を打ったりと、同社としてはあまり前例のない大規模なティザーキャンペーン(事前告知)を展開してきた。
「その結果、スズキを知らない、あるいは知っていても眼中にないというお客さまにも新商品の情報が届いたと思う」(鈴木社長)
事前受注が9000件集まりはしたものの、月販目標1000台と決して大量販売を目指していたわけではないフロンクスに営業部門がこれだけ入れ込んだのは、何もスズキをハイブランドに押し上げていくためだけではない。
「最近のスズキのクルマは乗ってみると良いと言われることが多くなった。しかしそれでは知られていないのと同じ」
と、鈴木社長は語る。クルマの商品性を顧客に的確に伝えるというのは、実は良い商品づくりと対をなす自動車ビジネスの最重要項目だ。
特に低価格帯の小型車、軽自動車は「安かろう悪かろう」というイメージで見られやすいため、良品廉価という定評を得ることは生易しいことではない。スズキと聞いて顧客がまず「小さくて良いクルマ」という商品像を思い浮かべるような状況を作り出すためのイメージリーダー役となることは、フロンクスの最重要タスクだ。