安定した電力供給をどう確保するか

 もとよりモーターの制御にはさまざまな方式があって、それぞれ周波数や電流を調整して制御する。だからリニアでもそのような制御をするのはまあ当たり前なのだが、こう聞くと、リニアモーターとは形状は直線的(リニア)だけれども、まさに「巨大なモーター」なのだなあ、ということが実感できた。

山梨リニア実験線都留変電所(写真左上)。右下に乗降用のプラットフォームが見える(写真提供:JR東海)

 CO2排出はどうかというと、飛行機に比べると、1人を1キロメートル運ぶのに3分の1ぐらいで済むと試算されている。ただしこれは新幹線に比べるとだいぶ悪くなる。このあたりは高速化するための宿命でもある。

 リニアの電力消費は、多くの車両が同時に時速500キロで走行するピークにおいて、東京・名古屋間開業時で27万キロワット、東京・大阪開業時は74万キロワットになると試算されている

 74万キロワットといえば小さめの原子力発電所1つ分ぐらいになる。これは、この地域の電力供給全体からみればさほど多くはないけれども、それなりの規模ではある。

 昨今はAIのためのデータセンターや半導体工場のためとして安定した電力供給が必要とよく言われるようになったが、リニアのためにも安定した電力は必要だ。

 リニアは、かつては東京・名古屋間の開業は2027年と見込まれていたが、これは延期されることとなった。いま建設工事が特に遅れているのは、静岡工区である。2017年に工事契約を開始したが、いまだ工事に本格着手できていない。水問題や環境問題を理由に静岡県川勝平太元知事が建設に強硬に反対してきたためだ。今年になって、同知事が辞任し、鈴木康友氏が知事になってからは、環境問題についての協議も進んでいる。

 本稿で紹介したように、リニアは、技術的には、未来のものではなく、もう今ここにあるもので、薄汚れるぐらいまで走り込んでいる。早期の工事完了、そして開業が待ち遠しい。