毎日2000キロメートルを走り込む山梨リニア実験線の車両(写真提供:JR東海)

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

新幹線で培った運行技術も転用

 山梨県大月市にあるリニア中央新幹線(以下、リニア)の実験線に試乗に行く機会があった。実験線といっても東京・名古屋間に建設されているリニアの営業路線の一部となる本格的なものだ。全長42.8キロメートルで、名古屋まで開通すればその7分の1の長さに相当する。そこを1往復半したが、あっという間の体験だった。

 見た目はSFのような乗り物かと言えば、そうではなかった。もちろん、時速500キロメートルという超高速を実現するには、空気抵抗を減らす流線形で、機能美にあふれた洗練されたデザインになっている。けれど、まあ新しい新幹線だと言われても、そうかなと思うような、既視感のあるものだった。

 だがこれは決して悪いことではない。技術的には、新幹線で培った車両技術の応用によって、リニアもできているということだ。

「技術の転用」というのはイノベーションの基本である。車体に打ってあるリベットの列も、いまある新幹線とよく似ている。まあ不細工だが、実績ある技術なので安心だ。転用といえば、これも新幹線の運行で培われた、安全運行のための通信システムや制御システムもリニアに引き継がれている。

 いまいち目新しくなかったもう一つの理由は、薄汚れた外観。

 これは何しろ毎日2000キロメートルも走らせているから、そうなるとのこと。毎日2000キロメートルというと、標準的な新幹線車両の実走行距離である1600キロメートルを上回る。リニアは、もう薄汚れるまで走り込むことのできる、現実の技術だということだ。

 単に走り込むだけではなく、まだあれこれとさらなる改善のための実験もしている。そのための路線なので、一部では車両に積載したガスタービンで発電するなどしており、その排気も汚れの原因になっている。

 また車両の空気抵抗低減のための表面フィルムのテストもしていて、それも汚れの原因になっているそうだ。こういったことはもちろん営業運転になるとなくなる。