なぜ南海トラフ地震がそれほどまでに脅威か

 南海トラフ地震による被害が東日本大震災を遥かに凌駕すると想定されているのには、南海トラフと向き合う東海地方から大阪湾にかけての沿岸部が日本有数の工業地帯であり、人口も東北地方とは比べものにならないほど多いことが挙げられます。

 ただし、地震被害を人的被害と経済被害に分けると、人的被害の最大要因は南海トラフの沿岸からの近さです。震源が近いと各地の揺れはより大きくなり、建物の倒壊や土砂崩れなどの危険性が増します。緊急地震速報が間に合わない地域もあるかも知れません。

 そして、何より脅威なのは津波が早く到達することです。東日本大震災では津波の最大波が到着したのは、最も早い岩手県宮古市や石巻市で地震発生の40分後だったのに対して、南海トラフ地震では徳島県美波町で28分、高知県黒潮町では30分後に最大の津波が押し寄せます。この約10分の差がどれほどの人的被害を招くか。中央防災会議の想定では、南海トラフ地震による全死者数23万1000人のうち、約16万人は津波によるとしており、約7割を占めるのです。

図1 南海トラフ地震による死者数の内訳 
人的被害が最大になるケースでの死者数の内訳。全死亡者のうち、約7割が津波によるとされ、3割弱が建物の倒壊で死亡すると推定されている
データの出典:南海トラフ地震の被害想定は「南海トラフ巨大地震の被害想定について(建物被害・人的被害)」令和元年6月 内閣府政策統括官(防災担当)