早期解決を遅らせるもう一つの意外な理由

 人質解放が遅れる理由は、中近東サイドだけではなく、米国側にもある。そこには米大統領選が大きくかかわっていると推測せざるを得ない。

 バイデンの指示を受けてブリンケン国務長官は、急遽イスラエルを訪れ、10月22日ネタニヤフ首相と会った。その場で、ブリンケンは、シンワール氏の死亡は人質解放に繋がる好機であり、この機会を確実に捉えるべきとしたが、ネタニヤフからは、何らの前向きな返答も得られなかった。その背後には、近時親密度を増している、トランプとの暗黙の合意があるからと推測せざるを得ない。

 すれはすなわち、〈ネタニヤフ首相が停戦合意に応じ、人質解放に踏み切ったとしても、それは11月5日の大統領選前には行わない〉とするものである。なんとなれば、アメリカ人を含む人質解放は、民主党政権にとって大きな白星となるからである。

今年7月26日、フロリダ州パームビーチのマー・ア・ラゴで、訪米したネタニヤフ首相と会談するトランプ前大統領(写真:AP/アフロ)
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 ネタニヤフは、トランプがかつて大統領であった時代に、イスラエル寄りの政策(アメリカ大使館のエルサレムへの移転、アブラハム・アコード締結の仲介等)を大胆に取ってくれたことから、トランプが再度大統領に就くことを強く願っていることは明らかである。

 加えて、トランプの義理の息子ジャレッド・クシュナーはユダヤ人であり、トランプのイスラエル政策の知恵袋である(クシュナーはかつてトランプ政権下で上級アドバイザーを務めていた)。

 上記の憶測は、全く根拠のないものではなく、1980年の米国大統領選で起きたことを想起すれば、アメリカでは大いに起きうることである。