復活への階段

 中村は大学卒業後も駒大・大八木弘明総監督の指導を受けて、東京五輪に到達した。しかし、2021年11月に練習拠点を母校から所属チームの富士通に変更。2年ほどは故障が完治しないなかで、福嶋正総監督と〝新たなマラソントレーニング〟を模索してきた。

「福嶋さんのマラソン練習はどちらかというと距離をしっかり走るんですけど、疲労が残ってしまい、レース当日、体が動かないことが多かったんです。故障もありましたし、年齢を重ねて、2019年のMGCで勝った頃と同じような練習をしていてもうまくいかないのかなと感じていました。そこで福嶋さんと話し合い、トラックのスピードを生かしながら、距離を伸ばしていく練習スタイルに変えたんです」

 今季は春先から「非常にいい練習」をこなしてきて、7月10日のホクレン・ディスタンスチャレンジ 網走大会10000mで「想定通り」の28分16秒20をマーク。その後は高地でトレーニングを積み、北海道マラソンの優勝ゴールまで突っ走った。

 中村は〝暗闇〟を潜り抜けて、ようやく〝復活の階段〟を上り始めた。

シューズの進化でトレーニングも変化

中村匠吾選手とナイキの『ヴェイパー フライ 3』写真提供/ナイキ ジャパン

 中村のマラソントレーニングが変化したのは、シューズの進化も大きく影響している。

「シューズの性能が良くなった分、スピード練習の質が上がりましたし、脚への負担も減っています。そういう意味では質の高い練習をより継続できている実感がありますね」

 前述した通り、福嶋総監督と新たなマラソン練習を築き上げ、スピードを生かして、距離を踏んできた。

「30kmや40kmの距離走は他の選手に比べると少ないと思います。でも、長い距離を踏まないわけではありません。30kmや40kmという距離を分割して、インターバル系で距離を稼ぐかたちに変えました。例えば30kmなら3km×10本や5km×6本です。必然的に質は高くなるのでダメージはあるんですけど、こういう練習をこなせているのが大きいと思います」

 ナイキのシューズを愛用してきた中村。北海道マラソンは『ヴェイパーフライ 3』を着用したが、日々のトレーニングでは様々なモデルを履き分けているという。

「レース本番や大事なスピード練習は、自分の接地したいポイントでしっかり反発をもらえる『ヴェイパーフライ 3』。30kmや40kmの距離走は『アルファフライ 3』か『ペガサス プラス』です。『アルファフライ 3』は疲労が残っていて、脚への負担を減らしたいときや反発をもらいたいときに使用しています。普段のジョグは『ペガサス 41』を履くことが多いですね」