文=酒井政人

2024年8月9日、パリ五輪、陸上、男子4×100mリレー決勝に出場した(右から)サニブラウン・アブデル・ハキーム、坂井隆一郎、桐生祥秀、上山紘輝 写真=YUTAKA/アフロスポーツ

金メダルを目指した男子4×100mリレー

 パリ五輪の陸上競技で最も注目を浴びた種目のひとつが男子4×100mリレーだ。リオ五輪で銀メダルを獲得している日本は今回、「金メダル」を目指していた。しかし、予選から厳しい戦いが待っていた。

 米国、英国、イタリアが入った1組で38秒06の4着。着順(3着)での通過を逃したのだ。それでも2組で日本のタイムを上回るチームはなく、全体4番目の記録で7大会連続のファイナル進出を決めた。

 決勝は予選で1走を担ったサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)を2走に入れるなど、オーダーを変更。1走・坂井隆一郎(大阪ガス)が好発進すると、2走のサニブラウン、3走・桐生祥秀(日本生命)はトップ争いを演じた。しかし、4走・上山紘輝(住友電工)へのバトンパスが若干遅れると、最後の直線は世界のトップスプリンターたちが猛威を振るう。日本はシーズンベストの37秒78をマークするも、5位でのフィニッシュになった。

 重圧がかかるなかで、選手たちはどのように戦ったのか。パリから帰国した選手たちが激闘を振り返った。

右から、桝田大輝、上山、桐生、坂井 撮影=酒井政人

 予選で2走を務めた栁田大輝(東洋大)は決勝メンバーから外れたことを悔しがっていた。「直前でメンバー変更があると、バトン練習をやり直さなければいけないので、負担が大きくなる。他の方々に迷惑をかけてしまいました……」と話すと、「来年の東京世界陸上、4年後のロス五輪で借りを返したいと思っています」と前を向いた。

 個人の100mと4×100mリレー決勝に出場した坂井は、「100mは0.01秒で準決勝進出を逃しました。リレーに関しては金メダルを狙っていたので、そこに届かなかったのは本当に悔しいです」と自身の走りに納得していない。だからこそ、「東京世界陸上は個々の力をもっと上げて、個人でもリレーでもいい結果を残せるように頑張っていきたいです」と力を込めた。

 予選と決勝で3走を務めた桐生は、「今回のリレー候補には鵜澤飛羽君、東田旺洋君らがいて、僕も予選がどうなるかわからなかった」と水面下で激しいメンバー争いがあったことを明かした。仲間たちの思いを感じているからこそ、「今回、僕はリレーをしに行っているので何としてもメダルを持って帰りたかった」と悔しがった。

 リオでは歓喜を味わい、東京では絶望を経験。すでに3度の五輪を走ったが、悲願達成のために今後もバトンをつないでいきたい考えだ。

「4年後まで競技を続けたい意向もありますし、来年は東京世界陸上がある。1年、1年やってロスを目指していきたい。これからの3年間で成長しないとダメだと思いますし、バトンパスを考えると、100mだけでなく、200mも走れるようにならないといけません。足りない部分を補って、『桐生の3走は固定で』と言われるように続けていきたいです」

 個人の200mに出場した後、4×100mリレーのアンカーを担った上山は、「ロンドン(ダイヤモンドリーグ)から1カ月近く一緒に過ごしてきて、いろいろな話もできましたし、楽しいこともありました」と海外で充実した時間を過ごしたという。しかし、リレーの結果については、「勝負できなかった部分もあるので、個々の力を上げいきたい。今回の悔しさは、東京世界陸上でしっかり返したいと思います」と東京でのリベンジを誓っていた。

 

マイルリレーは20年ぶりの入賞

2024年8月10日、パリ五輪、陸上、男子4×400mリレー決勝に出場した(右から)佐藤拳太郎、佐藤風雅、中島佑気ジョセフ、川端魁人 写真=松尾/アフロスポーツ

 男子4×400mリレーは予選で2分59秒48の日本新記録を樹立。4継と同じく、着順での通過はならなかったが、全体4番目のタイムで決勝に駒を進めた。

 決勝は予選と同じオーダーで出場。1走・中島佑気ジョセフ(富士通)が7番手でバトンをつなぐと、2走・川端魁人(中京大クラブ)と3走・佐藤風雅(ミズノ)は7位争いを展開した。アンカーの佐藤拳太郎(富士通)はバックストレートで7位に浮上すると、転倒したフランスをかわして6位でゴールに飛び込んだ。日本は2分58秒33をマーク。昨年のブダペスト世界選手権でインドに奪われたアジア記録を奪還した。

 過去のデータから「2分58秒50」を突破すれば〝メダル〟に到達できると計算していたが、優勝した米国が2分54秒43、2位のボツワナが2分54秒53、3位の英国が2分55秒83と超ハイレベルになった。日本は記録のミッションはクリアしたものの、メダルには3秒近いタイム差をつけられたことになる。

 選手たちはアジア記録を樹立した喜びを感じながらも、メダルを獲得できなかった〝悔しさ〟をそれぞれの言葉で表現した。

右から、佐藤拳、佐藤雅、川端、中島 撮影=酒井政人

「走っている途中で相当レースのペースが速いと感じていました。僕の役目は先頭集団で持っていくことだったので、それが果たせなかったのは悔しいです。今季はケガの影響もあって、安定感がないままオリンピックを迎えてしまった。これまでの経験や知見を生かして、レースプランを確立できれば、来季はタイムを大幅にアップできるかなと思います」(中島)

「今回の結果はうれしい反面、悔しい思いが強いです。僕の仕事は200m通過時でメダル圏内にくらいついて、次につなぐことでした。ただ世界の2走は速かったですね。それでも4月の世界リレー選手権に続いて、今回もラップタイムは自己ベストでした。もっと速くないとメダルには対応できないので、課題を修正していき、もっと強くなりたいと思います」(川端)

「個人の実力が足りていないなと改めて思いました。3走の走りとしては前で勝負して、アンカーにメダル争いで渡すことを想定していたんですけど、差を広げられる一方でした。個人でもマイルでも海外選手にボコボコにされたので、その差をどうやって埋めていくのか。いろんなアイデアが湧いきているので、早く練習したいなという気持ちです」(佐藤風)

「4走として必ずメダルを獲るという役目がありましたが、それを達成できなかった。メダルを本気で狙っていたチームだからこそ、いまは悔しい気持ちが勝っています。シーズン序盤にアキレス腱を痛めてしまった。それを差し引いてもシンプルに400m選手として弱いなと思っています。まだまだ日本の400mは世界と差があるので、もっとレベルアップをしていきたい」(佐藤拳)

 昨年のブダペスト世界陸上は400mに出場した中島、佐藤風、佐藤拳が予選を通過。準決勝でもレベルの高い走りを見せたが、パリ五輪の400mは3人とも予選で落選した。4×400mリレーは大会のフィナーレを飾るクライマックスとなる種目。来年9月の東京世界陸上はまずは個人で輝き、最後のリレーでは〝デッカイ花火〟を期待したい。