文=酒井政人 

2023年8月26日、世界陸上ブダペスト大会、男子4×400mリレー 予選での佐藤拳太郎 写真=長田洋平/アフロスポーツ

ブダペストの歓喜と落胆

 男子4×400mリレーは2022年のオレゴン世界陸上で大躍進を遂げる。日本は19年ぶりに決勝へ進出すると、メダル争いを演じて4位でフィニッシュ。2分59秒51のアジア記録(当時)を打ち立てた。

 この快走劇を複雑な心境でテレビ観戦していたのが佐藤拳太郎(富士通)だ。2015年から男子4×400mリレーメンバーに選出されてきたが、2022年は左アキレス腱(後脛骨筋)に痛みが発生。その影響もあり、リレーメンバーに加わることができなかった。

 仲間たちの活躍がまぶしく見えた。同時にメダルに届かなかった〝悔しさ〟を感じたという。

「あの場に私はいませんでしたが、彼らとは長い時間を一緒に過ごしてきました。火がつきましたね」

 故障から復活した佐藤は翌年のブダペスト世界選手権で快挙を果たす。男子400mの予選で日本記録(44秒78/高野進)を32年ぶりに更新する44秒77を叩き出したのだ。

 日本勢は準決勝で佐藤拳太郎が44秒99、佐藤風雅が44秒88(日本歴代3位)、中島佑気ジョセフが45秒04(日本歴代5位)をマーク。個人でのファイナル進出は逃したが、好タイムを続出させて、マイルリレーでの期待がさらに高まっていた。

 しかし、「メダル」を狙った男子4×400mリレーは予選(地主直央、佐藤風、佐藤拳、中島)で5着(3分00秒39)に終わり、敗退した。しかも5位入賞を果たしたインドに予選でアジア記録(2分59秒05)を奪われている。

 

個人で「決勝」、リレーで「メダル」を目指す

出国前、羽田空港の会見での佐藤拳太郎 撮影=酒井政人

 ブダペスト世界陸上のリベンジにマイルメンバーは燃えている。なかでも3回目の五輪代表となる佐藤拳太郎は羽田空港での出国時会見でも熱い言葉を吐いた。

「いよいよ始まるなという気持ちと、私自身も最大限のパフォーマンスをして、勝負をしにいくことを前提に臨んでいきたいと思います。まずは個人種目での決勝進出。それからマイルリレーのメダル獲得は必ず達成したい」

 6月末の日本選手権は予選を通過するも、「コンディション不良」を理由に決勝は棄権した。その原因は「左アキレス腱の痛み」だったという。

 予選の後、「腫れが出て、歩行も困難な状態」となったが、「できることはすべてやった」と1週間ほどは治療に専念した。その後は、トレーニングを再開して、「現時点では問題なく走れているので、パリ五輪のレース当日で最大のパフォーマンスを発揮できると思っています」と力強かった。

 個人の400mは準決勝での走りをポイントに挙げた。

「準決勝を44秒50以内で走れば通過できる。私は400m走の組み立てを大切にしているので、各区間の走り方を大事にしたいなと思っています」

 佐藤は2022年に早大大学院スポーツ科学研究科エリートコーチングコースで学び、400mのレースパターンを分析。以前は前半から飛ばすタイプだったが、「200~300m区間の速度を上げる」というレーススタイルに変更した。パリで目指すべき走りができれば、目標の「決勝進出」は十分可能だ。そのためには、日本記録(44秒77)の大幅更新も視野に入れている。

 それから男子4×400mリレーに向けては、メンバー最年長(29歳)として引っ張っていく覚悟を持っている。

「日本はマイルでメダルを取らなくてはいけない位置にいると思いますし、メダルの色にもこだわりたい。私自身、とにかくメダルが欲しいという思いがすごく強いので、メンバーで意識のベクトルを合わせて臨みたいと思います」

 

中島佑気ジョセフが考える戦略

2024年6月30日、日本選手権、男子400m決勝を制した中島佑気ジョセフ 写真=YUTAKA/アフロスポーツ

 佐藤拳太郎が不在だった日本選手権の男子400m決勝を制したのが中島佑気ジョセフ(富士通)だ。優勝タイムは45秒51と伸びなかったが、予選は45秒16の好タイムで悠々と走破している。

 中島は昨シーズンの後に渡米。南カリフォルニア大を拠点に、世界大会でメダルを獲得してきた米国人選手たちとハイレベルのトレーニングをこなしてきた。400mの走りも〝進化〟を感じているようだ。

「昨年は周りのスピードに対応しようと前半の200mを少し無理したようなかたちで走っていたんです。9割2分ぐらいで入っていたんですけど、今年は8割8分まで落としたことで、200~300mの100mが0.2秒ぐらい、ラスト100mも0.3秒ほど上がっています。フォームも少しコンパクトになって前半の省エネにつながっているのかなと思います」

 オレゴン世界陸上、ブダペスト世界陸上に続いての世界大会となる中島。パリ五輪は佐藤拳太郎と同じく、個人種目で「決勝進出」、アンカーでの出走が濃厚な4×400mリレーは「メダル」を狙っている。

「個人の400mは予選を44秒6で走り、準決勝で0.3秒上げられれば決勝にいけると思っています。マイルリレーはメダル獲得が選手・スタッフの共通認識です。1走で44秒5、2走以降は44秒台中盤、うち1人が43秒台で走れば2分58秒や57秒にも届く」と快挙達成に明確なイメージを持っている。

 男子400mは予選が8月5日の2時05分、準決勝が7日の2時35分、決勝が8日の4時20分。男子4×400mリレーは予選が9日の18時05分、決勝が11日の4時12分(いずれも日本時間)。日本勢の快走を楽しみにしたい。