文=酒井政人

男子100mで優勝した西岡尚輝(東海大仰星)※写真は2024年6月30日、U20日本選手権、男子100m決勝での西岡 写真=アフロ

準決勝で〝桐生超え〟の大会新

 昨季まで日本人高校生で10秒30を切った選手は歴代で12人しかいなかったが、今季はすでに3人が突破。〝史上最高レベル〟となった男子100mは予選から凄まじかった。特に圧巻の走りを見せたのがU20日本選手権王者の西岡尚輝(東海大仰星3)だ。

 今季は近畿大会を高校歴代3位の10秒21(-0.4)で制すと、U20日本選手権の予選で10秒20(-0.2)と自己ベストを短縮。今大会の〝大本命〟といえる存在だった。

 インターハイの100mは酷暑のなかで予選、準決勝、決勝の3本を一日でこなす。「速い」だけでは勝つことができない。そのなかで西岡は予選2組を10秒38(-0.8)の好タイムで軽々と駆け抜けた。

「自分はラウンド戦になると、決勝でいい動きができないことがあったので、とにかく温存を意識しました。それでも予選は結構いいタイムが出てびっくりしましたね」

 予選から約4時間後の準決勝。西岡が灼熱の会場をどよめかす。

「準決勝も温存しようと思っていたんですが、アブラハムがおって、どうしても気持ちが入ってしまったんです」

 大阪府大会で先着されたアブラハム光オシナチ(東大阪大柏原3)と同じ2組となり、リミッターが外れた。西岡は得意のスタートで抜け出すと、グングン加速。ライバルたちを引き離す。速報タイムを確認すると右拳を突き上げて、喜びを表現した。

 西岡はU20日本歴代3位&高校歴代2位となる10秒11(+1.2)をマーク。桐生祥秀(洛南/現・日本生命)が2013年に打ち立てた10秒19の大会記録を11年ぶりに塗り替えたのだ。

 

ダントツの強さで〝高校最速〟の座に

 準決勝から約1時間半後の決勝でも西岡の高速ピッチが冴えわたった。序盤でトップに立つと、ライバルたちを引き離していく。最後は大きなリードを奪って、フィニッシュラインに駆け込んだ。

 向かい風にタイムを阻まれたが10秒26(-1.5)で完勝。後続を0秒24以上も引き離した。公認記録としては桐生の10秒19、高橋和裕の10秒24に次ぐ3番目の優勝タイムだった。

 決勝では「自分の走り」をすることを目標にしていたという西岡。幼少期を福岡で過ごしており、今回は〝凱旋V〟となった。いとも簡単に優勝を奪ったように見えたが、ここまでに数々のドラマがあった。

 まずはフォームの改造だ。「中学3年時ぐらいから走りを変えました。4年間という長い期間で結構自分のものにできたのかなと思います」と西岡。参考にしたのは、ロケットスタートを武器に今年の日本選手権100mを連覇したパリ五輪代表の坂井隆一郎(大阪ガス)だ。

「リスペクトする坂井さんの真似をするのではなく、自分のなかに落とし込んで、少しアレンジした走りをしています。後半はガス欠をしてしまうことが多かったんですけど、苦手だった前傾姿勢をなるべく保ち、重心を使って走るようにしています。またこのカラダ(身長165㎝)を生かしてピッチを上げる部分も意識していますね」

 昨年は近畿大会を制すも、インターハイの1週間ほど前に左足に違和感が発生。現地に入ると激痛が走り、舟状骨の疲労骨折でスタートラインに立つことができなかった。

 今年は男子4×100mリレーで悲劇が待っていた。東海大仰星は近畿大会の準決勝で高校歴代2位の39秒48を叩き出すも、決勝はバトンミスが響いて7位。インターハイに駒を進めることができなかったのだ。

 それでも10人以上のチームメイトが大阪から深夜バスなどで福岡に来て、西岡の背中を押した。「みんなに会えて元気が出ましたね」と仲間の声援が大きなエネルギーになった。

 3年間の目標だったという「インターハイ優勝」を達成した西岡。高校卒業後も競技を続ける予定で、「ここで満足してしまったら、この先いい結果は得られないと思うので、今後も努力を惜しまずに頑張っていきたいです。将来の夢ですか? オリンピックを目指せるなら、目指していきたいなと思います」

 爆発力のあるスタートダッシュを見せた西岡だが、意外なことに決勝のリアクションタイムは0.180秒(予選は0.175秒、準決勝は0.171秒)で、ファイナリストのなかで最も遅かった。2~4位に入った選手のリアクションタイムが0.14台だったことを考えると、まだまだ速くなる可能性を秘めている。

 

〝サニブラウン越え〟を果たした1年生が2位

 男子100mは西岡の〝超特急〟に目を奪われたが、スーパールーキーも大活躍した。7月15日にサニブラウン・アブデル・ハキーム(城西/現・東レ)が保持していた高1最高(10秒45)を大きく上回る10秒26(+1.9)をマークしていた清水空跳(星稜1)だ。

 清水は昨年の全日中200mチャンピオン。6月の北信越大会は100mを10秒56で優勝、200mも自己新の21秒20で2位に入り、2種目でインターハイ出場を決めていた。

 男子100mは予選5組を10秒60(-0.1)、準決勝1組を10秒37(+1.0)でトップ通過。2年生以下で唯一、決勝に進出する。高校最速を決めるレースで西岡に力の差を見せつけられたが、大接戦となった2位争いを10秒50で制して、準優勝に輝いた。

「1年生なので、この大きな舞台を体感してみたいと思っていました」という清水。目標にしていた「決勝進出」を難なく達成すると、3年生を相手に堂々とした走りを披露した。

「予選でスタートをミスしましたが、準決勝で修正できて、決勝も自分の走りができたと思います。準決勝で10秒3台を出せましたし、あわよくばメダルを持ち帰りたいと思っていたので、この結果はすごくうれしいです。初めて西岡さんと走りましたが、速かった。でも追い越したいという気持ちです」

 パリ五輪の裏で、国内では楽しみなスプリンターが続々と登場。彼らのさらなる進化と、世界大会での活躍を期待したい。